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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

ボリビア訪問と日系人との交流

2009年8月末初めてボリビアを訪問した。それも日系人の移住地等が多い東側のサンタクルス・デラシエラ(Santa Cruz de la Sierra)である。

アルゼンチン人である筆者のボリビアに対する訪問前の認識とは、隣国や欧州への出稼ぎ労働者が多く、その中でもアルゼンチンへの移民は以前からのものであり、貧困率も高く(ハイチに次いで二番目?)、鉱物資源や石油があるにもかかわらず所得格差がひどく、高地には先住民が多く、コカの葉の栽培もあって違法なコカイン(麻薬)製造が国際問題になっており、数年前は先住民出身のエボ・モラレス大統領が誕生したということぐらいだった。

ビルビルー国際空港からタクシーで予約していたホテルへ向かったが、街は想像以上に活気があった。夜は、友人に街の中央広場や市役所等を案内してもらったのだが、飲食店は賑やかで、広場には家族連れで子どもたちが遊んでいたのに驚いた(南米の都市でこうした風景はあまり見られない)。サンタクルスはボリビア最大の都市で人口は160万人、22地区があり、リング状になっている地区が12ある(一つのリングが中心部になっている意味であり、拡張してきた地区の拠点ともいえる)。治安も比較的よく、冬であっても温暖であると感じた。中心街のレストランもテーブルを屋外に出していたが、食事をしてもスリや強盗に襲われるような緊張感や殺気は感じられなかった。

サンタクルス市役所、広場は夜でも市民の憩いの場。

日本の外務省等のサイトをみると、ボリビアの国民総生産は119億ドル、1兆1千億円相当で、一人当たりの平均所得が1,260ドルとある。物価上昇が約12%で、失業率が8.2%とある(すべて2007年の統計)。輸出も鉱物資源と大豆等が主で、工業製品等付加価値のあるものはあまりないようである。基本的に統計があまり整備されていない国で、詳細なデータはなかなかつかみにくい

しかし、筆者が滞在した約5日間では、上記の統計を表している状況は見られなかった。サンタクルスというこの東側の地域は経済的に非常に豊かであり、政治的にはモラレス政権とは距離を置いており、自治拡大もしくは独立ということも視野に入れているということもあるようだが、一般的に描いているボリビアのイメージとは異なる。地元の人も、ここは別のボリビア「la otra Bolivia」というぐらいで、やはりモラレスが目指している極端な弱者救済、富裕層制裁の社会主義的な経済・社会モデルには賛同していないように映った。かと言って、分離・独立を目指すために武装蜂起しているわけでもない。

数ヶ月後、ボリビアの経済大臣が地元新聞で発表した統計によると、現在の国民総生産は約2兆円近くで、一人当たりの所得も政府の貧困者や助成への給付金で年間1,900ドル、20万円相当にまで拡大しており、外貨準備高もGDPの50%所有しているという。ただ、世界経済危機の影響で、2009年には2008年の輸出金額68億ドル(約7千億円)が53億ドルまで落ち込んだという現実もある

帰国後、もっと詳細な教育・社会指標等を見ると、ボリビアの中等教育の終了率(卒業率)は平均で52.5%であり、貧困層では2%、親の所得や教育水準が高い層では93.8%というデータがあり、家庭・教育環境の格差があまりにも大きいことに驚きを隠せなかった。他の南米諸国でも同様の現象が見られるが、この不平等是正には相当の時間と一貫性のある中長期的な政策が必要である。また、高校中退率も約30%に及んでいる。その他、特殊出生率は3.5ポイントで、平均寿命率が67歳(男性が65歳で、女性が69歳)で、全国平均失業率が8%であるが、若年層の(失業率)は約20%にも及んでおり、文盲率も9.6%で、乳児死亡率が45ポイントである

ただ、ボリビア国内の地域間格差も大きく、筆者が訪れた東側は一人当たりの所得も平均の2.5倍はあると言われており(3,500ドルぐらい)、教育水準も平均より高いと実感した。穀物地帯ということもあって大豆の輸出等で地域経済も潤っており、街を歩いていても新車も多く、農業機械やトラックの売り上げも堅調という。高級住宅地の開発も目覚ましく、8万ドル以上の一戸建てが完売という地区をいくつも見た。

滞在中は車で2時間移動、約140キロ離れた、日系人のサンファン移住地も訪れた。友人の伴井(ばんい)ご夫妻に会うためである。現地ではBani(バニ)と発音されているが、ご主人はサンファン市の市長である。これまでパンアメリカン日系人大会-COPANIや日本でも会う機会があったが、ようやくボリビアで会えたのである。彼は日系二世であり日本語も堪能だが、今は移住地だけではなく市全体の行政の長であり、地域社会のインフラ整備や有権者である市民の生活をバランスのとれた施策で市政運営をしなくてはならない。移住地という日本人(一世)や日系二世等が主体の地域で、地元住民にも公平に行政サービスを提供し、きちんとした機会均等を保障することは至難の業であるが、これが彼の今の責務であり、大きな挑戦である。

サンファン市Bani市長と筆者、移住地の移民資料館

こうした中モラレス政権は、有効に活用していない土地は国の裁量によって整備し、再利用し、没収するという計画を進めており7、こうした政策の影響は各移住地にも及んでいるようだが、それは何らかの理由で放置されている土地、日本に出稼ぎに行って戻ってきていない所有者の土地、相続手続が開始されていない土地等がそうした措置の対象になっているという。政府は農業改革等の一環としてそうした土地を失業者や先住民等に与えるというが、そうした彼らの生活向上と、生産性の高い作物の栽培という目標が両立できるかは別問題であろう。とはいえ、90年代から来日している日系就労者の中には、出身国を問わず、本国に残してきた農地や資産を放置しているケースは案外多く、売買や相続の際遺族との争いも珍しくない。

いずれにしても、ボリビア、それもサンタクルス訪問は、筆者にとって大きな発見であり、たくましい日系人と出会うことができた貴重な体験となった。

サンタクルス市内、ボリビア・アキノ大学UDABOL(私立) http://www.udabol.edu.bo/

注釈
1. http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/bolivia/data.html  外務省のサイトから
     http://www.bo.emb-japan.go.jp/jp/index.htm  在ボリビア日本大使館 
2. http://www.fenaboja.com/bolivia/bo_top.html ボリビア情報
3. http://www.bolivia24.com/noticias-en-bolivia/economia/bolivia-avanza-y-es-pais-de-ingreso-medio-igual-a-peru/
4. http://www.la-razon.com/versiones/20100202_006991/nota_248_947241.htm
5. SITEAL  IIPE/OEI, 2008  http://www.siteal.iipe-oei.org/index.asp
     Anuario Estadístico de América Latina y el Caribe- CEPAL 2009. http://www.cepal.org/
6. http://www.fenaboja.com/
     http://www.fenaboja.com/SanJuan/sanjuan.htm 
     http://www.fenaboja.com/Nikkei/historia_migracion.htm
7. http://www.laprensa.com.bo/noticias/16-02-10/noticias.php?nota=16_02_10_nego2.php

© 2010 Alberto J. Matsumoto

Bolivia santa cruz

このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。