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日本文化に夢中:日本の伝統文化を極める“ガイジン”さんに、その魅力を聞くシリーズ

第10回 他者との共存を学ぶ武道 - パンケージ・ラストギさん-

「日本文化を極めているアメリカ人」を探している私に、ある日、こんな知らせが届いた。「一徹(いってつ)」と呼ばれている少林寺拳法一筋のインド系アメリカ人を紹介したい」。その人物は、パンケージ・ラストギさん。ロサンゼルス郊外オレンジ郡ウェストミンスターで道場を運営して5年目になるという。さっそく取材を申し込んだ。

少林寺拳法ウェストミンスター道場にて

アメリカの「ミー文化」との違い

道場に到着すると、10数名の子供たちが帯の色別にグループに分かれて、合掌構えに始まる技の練習中だった。その輪の中で、誰よりも大きな声を出し、動きが機敏で生き生きしているのが、パンケージさんだった。

実技練習が終わると、本を手にした子供たちを前に講義が始まった。パンケージさんは青いマットに「人」という漢字を書いた。

「人という字は2本の線が支え合ってできている。人間も同じ。自分一人では生きていけない。少林寺拳法を学ぶということは、単なる武道の技術の習得ではない。人にはそれぞれ個性があり、身体能力も異なるのだということ、だからこそ助け合いが必要だということを学んでほしい」

少林寺拳法は中国の少林拳と混同されやすいが、戦後、四国で創設された。日本九大武道の一つで、「修行を通じて、青少年の精神修養と人格形成を行う社会教育活動に力を入れる」ことが特徴とされる。

パンケージさんが少林寺と出会ったのは、1982年、大学1年生の時だった。場所はニューヨーク州バッファロー。そのころ習っていた空手の道場が突然閉鎖され、仕方なく、別の日本武道の教室を訪ねてみたところ、それがたまたま少林寺拳法の道場だったという。

「大学で電気工学を専攻していた僕にとって、日本は非常に魅力的だった。最先端の技術は常に日本のものだったから」。そんな時期に少林寺拳法と出会い、「武道としてだけでなく、少林寺が提唱する『他者と共存する』という日本的な考え方にも感化された。アメリカでは誰もが『ミー、ミー(Me, Me)』で、他人の話に耳を傾けようともしないから、その違いがとても新鮮だった」

職場の上司も道場の弟子に

日本の技術、日本の精神性に魅かれたパンケージさんは、就職先として日本の電機メーカーを選んだ。日本に行きたい一心で書いた履歴書は3百通にも上った。

日本では本部のセミナーに参加し、道場に通い詰めた。そんな時に東京で出会ったのが夫人の由紀子さんだ。その後、転勤に伴い家族で帰国、今の道場を開設した。

少林寺で道場長になるためは、三段以上という段位以外にいくつかの条件が課される。まず、フルタイムの職に就いていること。これは、組織自体が非営利団体であるため、道場運営により利益を出すことが禁じられているからだ。そして、道場開設前に10人の弟子を抱えていること。さらに論文、筆記試験を通過した上で、1年間の道場長研修期間を経て、正式に道場を設けることができる。

彼が試験に臨んだ2005年当時には、アメリカ西海岸にはまだ日本人以外の道場長は誕生していなかった。「しかし、挑戦せずにはいられなかった。生きていくこととは目標に向かって行動し続けることだから」とパンケージさんは振り返る。

弟子の中には、職場の上司ガスさんもいる。ガスさんは「彼は会社では部下だけど、ここでは敬愛する先生だ。彼の考え方が少林寺を通じてより深く理解できるようになり、職場でも彼を助けたいという気持ちが強くなった」と話してくれた。

ところで、一徹のニックネームをつけたのは由紀子夫人である。命名の理由は「少林寺一筋、野球でいえば漫画『巨人の星』に出てくる星一徹のような人だから」とのこと。

最後に本人に夢を聞くと「弟子たちが独立して、道場を開いてくれること。あちらこちらの道場を訪問して回りながら余生を過ごしたい」と目を輝かせながら答えてくれた。

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少林寺拳法ウェストミンスター道場のウェブサイト
>>www.shorinjikempo-westminster.com/

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* 本稿はU.S. FrontLine 2009年 11/5号からの転載です。

© 2009 Keiko Fukuda

martial arts U.S. FrontLine

このシリーズについて

三味線、陶芸、詩吟、武道、着物…その道を極めるアメリカ人たちに、日本文化との出会いと魅力について聞く。(2009年のU.S. FrontLine より転載。)