ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2010/06/04/

ヨセミテ紀行 - その1

娘のエミーが結婚したのは去年の9月だった。エミーは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を卒業後、南カリフォルニア大学(USC)の修士課程へ進学。そこで2歳下のジュン・アーンと出会った。彼は韓国系アメリカ人で東部ロードアイランドの出身。アイビー・リーグのブラウン大学を卒業後、同リーグのコロンビア大学で修士課程を修了し、南カリフォルニア大学の博士課程へ在学していた。二人はジュンの在学中の結婚だった。

ジュンは高校時代に日本語の授業を取得、日本文化に興味を持つようになった。東部アイビー・リーグから南カリフォルニア大学を選んだのは同校が授業料から住まいまで全額支給の奨学金を受け取ったからであった。

5月13日はジュンの晴れの卒業式。146人の大学院卒業生(教育学部)の中で博士号取得者はジュンを含めてたったの二人であった。ロードアイランドから彼の両親と妹、私の家族全員が出席した。ジュンはすでにメリーランド州立大学への教職が決まっており、二人は8月にはメリーランド州へ引っ越すことになっている。エミーは現在看護士(セラピスト)の職業についているが、メリーランド州に行っても当地のライセンスに切り替えて仕事に従事できるようだ。

5月13日の卒業式にて。副学部長のドミニック・ブリューワー博士をはさんで左側が教育学部博士課程を卒業した娘婿ジュン・アーン、右側が娘エミー当銘・アーン。 (写真:筆者提供)

娘夫婦がメリーランド州へ引っ越す前に、家族そろっての短期旅行を計画、5月上旬家族4人でヨセミテに旅行した。ジュンがロサンゼルスへ来てから6年間一度もヨセミテに行ったことがないのと、その景観に触れたいとの思いがあったのである。私はヨセミテを訪れるのは3度目だが、訪れる度に深い新たな感動がこみ上げてくる。車での旅はカリフォルニアの南から北上して帰宅するまで、走行距離1000マイル(約1600キロ)にまで至った。行きはネバダ州境のルート395を北上、モハビ砂漠を突っ切っり、デスバレー(死の谷)の横を通りすぎて行った。ルート395は一車線の小さな道路だが、私は好んでこの道を選んだ。娘夫婦にどうしても見せたいところがあったからである。第2次世界大戦前に日系人1万人以上が強制収容されたマンザナーに寄りたかったのだ。

1942年、ルーズベルト大統領の指示で全米10箇所に約12万人が「適性外国人」として各地の収容所に送られた。マンザナーもその一つである。レーガン大統領時米政府は88年に強制収容を謝罪、アメリカの非を認め収容者全員に2万ドルの補償金を支払った。

今回訪れたマンザナーは、ジーン・ワカツキ・ヒューストンの少女時代の収容体験を描いていた『マンザナーよ、さらば-強制収容された日系少女の心の記録-(Farewell to Manzanar)』の舞台となったところだ。この本は、映画化されただけでなく、現在ではアメリカの多くの学校で、日系人の収容所体験を教えるための教材としても使われている。

今マンザナーには立派な記念館が造設されている。日系人がたどった苦渋の経験を娘夫婦に知って欲しかったのだ。
 
娘はマンザナーは2度目である。前回訪れた時のことや全米日系人博物館で学んだ日系人の歴史をジュンに話して聞かせていた。ジュンは以前アメリカの歴史の中で日系人収容の事実を「アメリカの歴史」の本の中で読んだことがあるが、実際にマンザナーに来て「多少歴史のいったんに触れる事ができたことは有意義であった。二度とあってはならないことだ」とわだかまりな面持ちで感想を述べた。

続く>>
 

マンザナーの記念館を背景に記念撮影。カリフォルニア州オーエンズバレー(モハベ砂漠とデスバレーに連なる)に位置する。 (写真:筆者提供)

© 2010 Sadao Tome

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執筆者について

1941年8月、沖縄県本部町生まれ。学習研究社などの勤務を経て1969年に渡米。グレンデール市立大卒、カリフォルニア州立大(CSULA)に編入・中退。2005年、6年の2年間北米沖縄県人会会長歴任。現在「北米沖縄県人会歴史書編纂」委員長。琉球新報アメリカ通信員。08年に日本エッセイスト・クラブ会員に認定される。著書「アメリカに生きる」。

(2011年1月 更新)

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