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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2009/2/12/masako-kato/

帰米二世に嫁入りした日本人女性の記録: カリフォルニア州モンテベロ在住の加藤雅子さん - その3 穏やかな引退生活、今は孫がレストランの道へ

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戦後、リトルトーキョーで盛業していたダルマ・カフェの子息、加藤光男さんに日本からお嫁入りした雅子さん。しかし、渡米5年後には、巨額の改修費用をかけたにもかかわらず、再開発地区に指定されていたため、建物を追い出される羽目になる。

そして、自宅のあるモンテベロで日本食レストランを開業するが、日本の両親が娘のアメリカでの生活を見に来ることになり、当時、困窮していた暮らしぶりを知られないようにとその店も2年で閉めてしまった。

店を閉めると同時に、幸運なことに、光男さんはユナイテッド航空の機内食を作っていた会社に採用された。友人から声がかかったのである。

「まだ(国内線でも)機内食を出していた頃で、とにかくその会社は人手が足りなくて,友達に『ミツ、来てくれ』と頼まれちゃったんです。本当なら、 ちゃんと入社試験も受けないといけないでしょうに、それもありませんでした。そのまま夫が働き始めたので、私が店の後片付けをすべてやりました」

光男さんはそれから引退するまで、24年もの間、機内食の会社に勤続した。

「運が良かったですね。店を続けていたらペンションも入って来なかったでしょうし。そういうベネフィットがしっかりしていましたから。それにユナイ テッド航空の関連社員ということで、家族まで飛行機代が無料だったんです。今でも、そうです。だから、私はタダで何度も日本に帰国できました」

雅子さん夫婦は4人の子供に恵まれた。結婚翌年の1957年に長女、59年に長男、61年に次男、そして63年に次女が生まれた。それぞれが2歳違いで、男女二人ずつである。

「子供たちには日本語学校に通わせましたが、日本人と同じくらい流暢に日本語を操るのは残念ながら長女だけです。長女はワーナーブラザーズに務めていて、アジアの部門を担当しているので、頻繁に日本にも出張しています」

以前のような華やかさとは無縁だが、平和で静かな生活を送っていた1994年に、光男さんは癌に侵され、亡くなってしまう。

「ハズバンドが先に引退していましたから、『早くお前も引退して一緒にいろんな所へ旅行をしよう』と言っていたのに、それが叶いませんでした。私も レストランを閉めた後にエビの会社で働いていたんです。旅行代はユナイテッドのおかげで無料なのに、肝心の光男がいなくなってしまいました」。そして雅子 さんが退職してから10年が経過した。

「日本を離れて渡米したことに未練はありませんか」と問うと、「そうですね。今のようにのんびり暮らせるのもアメリカだからでしょう。周囲の7軒に は皆、日系人が暮らしているんです。ここが行き止まりなので、夏になれば、道路に椅子やテントを出してブロックパーティーのようなことをして楽しみます。 そんな時には、向かいに住むアーチー・宮武さん(日系収容所の写真などで知られる東洋・宮武氏の息子)が、皆の写真を撮ってくれるんですよ。それにここに は4人の子供たちと孫、私の大切な家族がいますから」

子供たちはレストランビジネスとは無縁の仕事に就いたが、孫の1人がパサデナの学校を卒業して料理の道に進もうとしているそうだ。

「本格的に頑張るなら、ぜひヨーロッパに行って修行してきなさい、と話しています。母親がメキシカン、父親が日系人なので、将来は日本食とメキシカン料理の店を開きたいというのが、彼のウィッシュなんです」

最後に、先立たれたご主人への今の思いを聞いた。「光男には感謝しています。彼は本当にジェントルマンで、車を降りるとさっと歩道側に移動してドアを開けてくれたものです。そういうところがマナーが良かったですね」

雅子さんの胸の中には,会ったその日に結婚を決めた光男さんの面影が、今もしっかりと抱かれているようだった。

© 2009 Keiko Fukuda

航空会社 家族 ユナイテッド航空
執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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