ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2009/12/21/tanabata/

ロサンゼルス「七夕祭り」 その3: 新たな伝統を目指す─ 七夕飾りの「お焚き上げ」─

ロサンゼルス日系社会における2009年の出来事の中で、特に注目を集めたものの一つに、七夕の行事がある。第1回ロサンゼルス七夕祭りとして、二世週日本祭の期間中に、二世週日本祭実行委員会、リトル東京防犯協会、そして南加県人会協議会の3団体が共催し、当初の計画を上回る250個の七夕飾りがさまざまな団体や家族によって作られて、小東京を訪れる人々の目を奪った。祭りの後は、多くの参加団体が自分たちで作った飾りを引き取って、それぞれの関連施設で飾るなどしているが、唯一、全米日系人博物館は、ロサンゼルスの海岸で「Bonfire(祝祭時の送り火)」と銘打って、七夕飾りを燃やすイベントを行った。「新しい伝統の構築」を目指したものだ。七夕祭りそのものが、日系社会の日本語グループと英語グループの「協力体制の樹立」という形の新たな伝統を日系社会に作っていけるか関心を集めている中、博物館のイベントも、日本の「お焚き上げ」の伝統行事を米国社会に広める試みとして今後、話題を集めそうだ。

短冊100枚は日本へ

全米日系人博物館では、七夕祭りが終わった後、博物館新館の外側に飾り付けていた七つの飾りを片付けたが、終局的にどう処分したらいいか分からぬまま、博物館内に保管していた。博物館の飾りは他の団体が作ったものよりも大きく、どのように処分するかは決して小さな問題ではなかった。

一応、飾りは全部ばらばらに解体して、土台になっている籠やフレームから、吹き流しなど紙でできている部分を外したが、さて「それからどうする」という段になり、みんなであれこれ話しているうちに「燃やしたらいいんじゃないか」ということになった。

七夕で使ったものを燃やすのは、実は短冊ですでにやっていた。6月に博物館が行った七夕のワークショップで、参加した人々にそれぞれの願い事を書いてもらった短冊を滋賀県にある禅宗のお寺に送って、「お焚き上げ」をしてもらったのだ。送った短冊は100枚ほど。住職は「せっかくアメリカから送られてくる短冊だから」と、特別のセレモニーを行ったという。

「燃やすなんてとんでもない」「せっかく作ったのだから、来年までとっておくべき」という意見も多かった。費用面だけではなく、一つの飾りだけで、250個から300個の花の飾りを作ったという労力の問題もある。そうした意見も頷けないわけではない。

それでも、「Discover Nikkei」の西村陽子さんが、日本では祭りの時に使ったものは処分するのが習慣であり伝統であることを指摘。しかし、ただ単に捨てるのはやはり忍びないし、ここは日本ではないのだから、もっとコミュニティー的なイベントを企画したらどうかということになり、日本の「お焚き上げ」の精神に則った「Bonfire」を催すことで落ち着いたのだった。

変わる処分の方法

日本では七夕で使った短冊や笹は、川や海に流して汚れを払う「七夕送り」や「七夕流し」の風習があった。願い事を神様に持ち帰ってもらうという意味だが、現代では環境汚染問題からこうした風習はすたれ、地域で決められた方法でごみとして処分するところが大半である。特に都会では可燃ごみとして回収してもらっているようだ。それでも神社でお焚き上げとして燃やしてもらう風習もまだまだ広く行われている。

ただ、それらは一般の家庭などで飾る比較的小さい七夕飾りの場合で、大きな飾りに関しては、リサイクルしたり、地域住民に配ったりしているところもあるようだ。

七夕祭りで有名な仙台では、3日間の祭りが済むと飾りはすぐに撤収されるが、やはりそれぞれの飾りに相当の資金と労力をかけているだけあって、ごみとして処分するようなことはしないようだ。

仙台では例年、約3000本もの飾りが七夕祭り期間中に飾られているが、そうした飾りは日本各地に引き取り手があり、祭りが済んだ後は、飾りの多くがそうした引き取り手のところで飾られているそうだ。商売繁盛を期す商店街などにも多数が贈られているという。

セレモニーに50人

「Bonfire」のイベントは、ロサンゼルス空港に近いプラヤデルレイのダックウィーラービーチで行われた。ここにはバーベキューができる大きな石の臼のような物が多数設置されており、そこで物を燃やすこともできる。使用についての許可も要らない。

折角だからと、まずは持ち寄りのバーベキューをして、その後、参加者みんながそれぞれ願いごとを短冊に書き、それと七夕飾りとを一緒に燃やすことにした。飾りは燃えない部分や燃えにくい部分もあるため、燃え易い紙で作った吹き流しの部分を切って、燃やすだけでなく、短冊として使えるようにもした。

集まったのは、七夕の飾り付けを中心になって行った「Discover Nikkei」の担当者をはじめとする全米日系人博物館の職員、およびその家族や友人ら約50人。七夕祭りのロサンゼルス開催が夢だった宮城県出身の米澤義人さんも夫人の純子さんとともに参加し、夢の実現のために協力してくれた博物館関係者に感謝してあいさつした。また、博物館のジョン・エサキさんが参集者らに感謝するとともに、「米大陸唯一で初のセレモニー」とあいさつすると、一同から大きな拍手と歓声がわいた。

短冊に願い事を書くと、いよいよ「Bonfire」本番。日が落ちた海岸で七夕飾りが願い事を書いた短冊と一緒になって燃える炎を見詰めながら、参集者らはそれぞれ七夕の意味をもう一度かみしめていた。

<七夕の 短冊燃えて 海暮れぬ>

今回は初めての試みだったが、七夕実行委員会からもナンシー・キクチさんら主要メンバーが参加。博物館側では来年も七夕祭りが実施されれば、極力参加する方針で、新たな伝統の構築に向け、2年目の挑戦となる。

七夕飾りを燃やす炎の中に、願い事を書いた短冊を投げ入れる参集者ら。手前左端が米澤さん夫妻(6593B)

© 2009 Yukikazu Nagashima

フェスティバル 祭り 七夕 伝統
執筆者について

千葉市生まれ。早稲田大学卒。1979年渡米。加州毎日新聞を経て84年に羅府新報社入社、日本語編集部に勤務し、91年から日本語部編集長。2007年8月、同社退職。同年9月、在ロサンゼルス日本国総領事表彰受賞。米国に住む日本人・日系人を紹介する「点描・日系人現代史」を「TVファン」に連載した。現在リトル東京を紹介する英語のタウン誌「J-Town Guide Little Tokyo」の編集担当。

(2014年6月 更新)

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