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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2008/3/26/okinawan-network/

世界のウチナーンチュ大会と沖縄県系人ネットワーク」: ウチナーネットワークにおけるアイデンティティ、ハワイの特殊性とジェンダー

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はじめに

「世界のウチナーンチュ大会」(以後、大会と表記)は、沖縄県が1990年から5年ごとに開催してきた、沖縄で最大規模のコンベンション事業であ る。第4回大会は、2006年の10月に開催された。沖縄県によると、世界21カ国、さらに国内と県内から、およそ4,900人という過去最多の人々が 集った。参加者たちは、さまざまなイベントを通して沖縄への愛着や誇り、アイデンティティを確かめ合い、交流を行った

この章では、まず、第4回大会参加者を対象として行ったアンケート調査の集計結果をもとに、どのような人々が参加し、彼らは大会をどう評価している のかを記述する。次に、参加者の中でひとつの層をなしている重要なカテゴリーとして、ハワイからの参加者と女性参加者をとりあげて分析を試みる。ハワイの 沖縄県系ネットワークについては、<自足性>という仮説を提示する。最後に、アンケートの自由回答の記述をもとに、沖縄県系の越境的なネットワークの今後 について、課題を整理する。

Ⅰ.ウチナーンチュ大会への参加

第4回世界のウチナーンチュ大会に参加した人々の感想は、「とても楽しんだ」が78.1パーセント、「楽しんだ」が20.8パーセントであり、満足度が高い結果となっている。

この大会の成果は、「沖縄の伝統・文化・風土への理解が深まった」が74.4パーセントで最も高かった。「自分 が沖縄系であることを認識した」、「移民の歴史への理解が深まった」、「世界のウチナーンチュ同士の交流が深まった」も、約6割の回答を得た。一方、回答 が少なかったのは、「ビジネス交流が促進された」6.7パーセント、「自国の文化を沖縄県民に紹介できた」26.1パーセントであった。参加者は、アイデ ンティティの確認という大会目的については、成果を実感している。一方で、交流については課題が残っている。

Ⅱ.次世代への継承と今後の交流

回答者が所属している沖縄県人会活動の、次世代への継承について、「どちらかというとうまくいっている」とあわせれば、72.2パーセントの人が肯定的である。

今後の海外のウチナーンチュとの具体的な交流予定は、「ある」「ない」がほぼ半々であった。

Ⅲ.ハワイ州からの参加者の特徴

所属している沖縄県人会の次世代の継承については、ハワイ参加者は、「(どちらかというと)うまくいっている」と答えた人の比率が、相対的に高い。 日本語能力は、ハワイからの参加者が、相対的に低い。日常会話のレベルまで含めて日本語を話せる人は、ハワイ州では30.9%、合衆国のその他の州では 44.1パーセント、全体では45%であった。

興味深いのは、今後の展望である。海外のウチナーンチュとの交流予定の有無について、全体では「ある」(50.1パーセント)と「ない」(49.9 パーセント)がほぼ半々だったのに対し、ハワイからの参加者は、「ない」(59.5パーセント)が「ある」(40.5パーセント)を19%も上回った。今 後、交流を深めていくべき分野についての回答でも、ビジネス、人材育成について、海外のウチナーンチュとの交流に、ハワイからの参加者がとくに高い期待を 寄せているという結果はでなかった。

ここから導き出されるのは、<ハワイのウチナーネットワークの自足性>という仮説である。ハワイの沖縄系の人々のネットワークは、良くも悪くも、ハワイの中である程度、自足できるだけの成熟をとげているのではないだろうかと思われる。

Ⅳ.女性参加者

女性は、このアンケート調査の回答者の約6割を占めている。ホワイトカラー、とくに専門職として働いている女性たちが多かった。また、仕事と子育てを引退する年齢になっても沖縄にくるエネルギーを持った女性たちは、大会参加者の重要な構成要素である。

大会の感想(満足度)、大会の成果について、ほとんどジェンダーの違いはなかった。今後の海外のウチナーンチュとの交流予定については、女性は、 「ない」という人(51パーセント)が、「ある」(49パーセント)をわずかに上回った。男性は、逆に、「ある」(53.1パーセント)が、「な い」(47.1パーセント)をやや上回った。今後の世界のウチナーネットワークを考える上で、女性の担い手を増やし、女性たちのエネルギーをとりこんでい くことは、重要な課題ではないだろうか。

Ⅴ.世界の沖縄県系ネットワークの展望と課題

大会に対する自由記述の回答では、この大会が開かれたことへの感謝、ウチナーンチュであることへの深い誇りと共属意識、そして大会の継続を熱望する声が最も大きかった。

一方で、実質的な交流のレベルでは、課題が残っている。主催者である沖縄県は、地元の沖縄県民ともっと交流したいという参加者の声に、耳を傾ける必 要があるだろう。また、3世以降の世代、とくに若者たちの出会いと相互の学びあいの機会を設けることは、人材の育成と「次世代への継承」のために、きわめ て重要な課題である。

Ⅵ.対象者の基本属性

第4回世界のウチナーンチュ大会の参加者のうち、この調査に回答した人々は、年齢区分では、60~64歳が最も多かった。55歳から74歳までの回答者で、全体の約52.7パーセントにのぼる。男女別では、男性が4割弱、女性が6割強であった。世代では、2世は37.4パーセント、3世は36.3パーセントであったのに対して、1世は18.8パーセントであった。

現在の居住地では、アメリカ合衆国が63.8パーセントであった。ハワイ州からの参加者は、アメリカ合衆国からの参加者の約56 パーセントを占めていた。日本語能力では、「全くできない、もしくはあいさつ程度」が39.1パーセントにのぼった。

Ⅶ.結論:今後の課題

アンケート調査の自由記述からは、大会において、参加者どうしが話し合ったり、大会後の日常の交流につながる関係を作ったりするなどの、実質的な交流への要望が大きいことがうかがえる。

大会参加者の中で、海外で生まれた世代の占める比率は、今後も増加していくと考えられる。参加者たちは、沖縄に集って何をするのか、大会がその後、参加した人々にとってどのような意味を持つのかという、交流とネットワークの実質を問うている。

主催者である沖縄県は、地元の沖縄県民ともっと交流したいという参加者の声に、耳を傾ける必要があるだろう。また、3世以降の世代、とくに若者たちの出会いと学びあいの機会を設けることは、人材の育成と「次世代への継承」のために、きわめて重要な課題である。

それについては、大会主催者だけの責任というよりも、沖縄県内の教育・研究機関も、役割を果たす可能性がある。世界のウチナーンチュのネットワーク がこれほどの広がりを持つということの意味を、沖縄県内に住む人々、とくに若い世代に問いかけていくことは、海外の沖縄県系人と沖縄在住の県民の両方に とって、意義のあることだと思われる。

世界のウチナーンチュ大会は、言うまでもなく、非日常の祝祭である。それが、海外に生きる沖縄系の人々の日常とどのように結びつき、日常の中に溶け 込んで、作用を及ぼしているのか/いないのかということを検証していくことが必要となってくる。第一に、個人のレベルでは、例えば大会を通じて日本語を学 びたいと思った人は、本当に学び始めているのだろうか。第二に、沖縄系の団体・組織のレベルでは、大会の成果をどのようにふり返っているだろうか。次世代 の担い手は、育ちつつあるのか。そして第三に、越境的ネットワークのレベルでは、大会で出会った人々は、国境を越えて、実際に連絡を取り合い、関係を深め ているのだろうか。また、大会に来なかった/来ることのできなかったたくさんの沖縄系の人たちにとっては、「越境的ネットワーク」とは、どのような意味を 持つのだろうか。

大会参加者を対象とする調査のデータは、世界のウチナーンチュの日常と現実の次元に広がるさらなる考察へと、我々をいざなっている。

© 2008 Naomi Noiri

沖縄県民 ウチナーンチュ
執筆者について

琉球大学法文学部准教授。専門は比較社会学。沖縄のアメラジアン、日系人、外国人についての調査、ハワイのアメラジアン、ウチナーンチュウのアイデンティティについて調査研究を行っている。

(2008年3月 更新)

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