ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2008/2/14/little-tokyo-eigakan/

よみがえったか? リトル東京の映画館

リトル東京のはずれ、メイン通りを車で走る際、いつも気になっていた看板があった。「LINDA LEA」「JAPANESE FILMS」古めかしい“東映”のマークも見えた。ここが、日本映画専門の映画館だったと初めて聞いたときは驚いたものだ。今、日本映画がLAで上映され るとすれば、日本でヒットした作品が米系の配給会社によって1週間のみ、独立系映画館で上映されることがあるくらい。しかも客席はガラガラのことも多い。 それほど影の薄くなった日本映画を専門に上映する映画館があったなんて。そして、昔はこんなところにまでリトル東京が広がっていたんだな…。今では英語と いうよりスペイン語の文字が目立つその附近を漠然と眺めていたものだ。

当時を知る人に聞けば、LAにはリトル東京の他にも、クレンショー、ラブレア地区にも日本語専門の映画館があったそうだ。黒澤や溝口といったアメリ カ人の映画通が好む監督の作品が必ずしも人気があったわけではなかった。娯楽のなかった時代、チャンバラやヤクザ映画が好まれた。映画館は移民1世から彼 らの子孫でにぎわい、一種の社交場と化していた。しかし、日本のバブルの恩恵は受けることがなかったのだろう。どの映画館も90年代に入る前にはバタバタ と文字通り幕を下ろしている。

んな「リンダ・リー」が再建されると聞いたのは、もう2年以上も前だったろうか。LAで活動する日本人の映画プロダクションなども当初、オペレー ション参加を考えていた。「けれど、あそこはスクリーンが一つしかないんだ。うなぎの寝床みたいに奥に長くてね」-映画をこよなく愛す彼らにとっても、日 本映画を定期的に上映するには、採算を見込めない設計上の欠点が大きな足かせとなった。

劇場を新しく買い取ったカースト・ファミリーは、LAベースのディベロッパー。劇場のために設立した会社、シネマ・プロパティーズ・グループの代表 には、ファミリーの一員、スーアン・カーストさんが就任。周囲に雨後のタケノコのように建設が進むコンドミニアムに変えるという手もあったのだろうが、あ えて劇場としてコミュニティに還元することを選んだ、とスーアンさんは「Los Angeles Downtown News 」紙に語っている。

そして、映画館運営には素人のスーアンさんがジェトロ・ロサンゼルス事務所で仲介されたのが、ImaginAsian Entertainment だ。NYに本社を置く同社は、アジア系アメリカ人向け専用TVチャンネルを中心に、ラジオ、映画、DVDなどマルチメディアの分野で急成長。LAに先立っ てNYにアジア系専門映画館もオープンさせている。

ImaginAsian社とのパートナーシップにより、運営の見込みが立ったところで、ついに再建工事がスタートした。しかし、80年前に建てられ た「リンダ・リー」、クラシカルな外観=建物はボロボロである。結局は、外壁をわずかに残すのみで大部分は取り壊されてしまった。私の友人でこの取り壊し に参加した人がいる。彼は「リンダ・リー」内で事前調査を行ううち、昭和初期にタイムスリップしたかのような、備品(看板や表示板)をいくつも見つけた。 彼はこれを新しい映画館にインテリアとして使ってはどうかと提案したという。日本人ならば、そこに価値を見出すのは当然だったろう。しかし、残念なこと に、提案は無視され“破壊”は進んだという。

かくして、ImaginAsian Centerは、日本映画だけでなくアジア系映画を専門に上映する映画館の役割を中心に、ライブパフォーマンス、アート発表など多目的に利用できる場とし て誕生した。2007年12月のオープニングの日、ダンサー・コレオグラファーとして売れっ子のキャリーアン・イナバら、アジア系TVスターを招いたパー ティーは盛大だった。日本、中国そしてアイルランドの血をひくキャリーアンは言う、「リトル東京に私たちアジア系が集まる場所ができたって素敵じゃな い?」。その後もハリウッド系のパーティーがこの場所で行われていると聞く。

リトル東京に映画館はよみがえった。しかし、それと同時に「『リンダ・リー』は完全に消えた」。そう嘆くのは、単なる私の懐古趣味なのだろうか、それとも・・・。

© 2008 Yumiko Hashimoto

執筆者について

兵庫県神戸市生まれ、97年よりロサンゼルス在住。日系コミュニティ紙に編集者としての勤務していたが、近年はフリーランスライターとしてローカル情報を 中心に記事を執筆。日本にいたころは、第二次世界大戦時の強制収容所はおろか、“日系人”という言葉さえ、耳にすることもなかった。「日系人の存在を少し でも身近に考えてもらえれば」。その思いで「ディスカバー・ニッケイ」のサイトに寄稿している。

(2008年10月 更新)

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