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日系アメリカ文学雑誌研究: 日本語雑誌を中心に

アメリカ東海岸唯一の文芸誌『NY文藝』―その6/9

その5>>

(2)創作(その2)

西茂樹(本名は西岡重幸)(1916‐1989)は太平洋戦争中、アメリカ政府によって捕虜交換要員として中南米諸国から合衆国へ強制移住させられた2,262人の日本人の中の1人である。愛媛県で生まれ、義兄を頼ってペルーへ移住し、1944年、突然逮捕されてアメリカのテキサス州にある収容所に抑留された。終戦、アメリカへの「不法入国者」の身分のまま収容所を仮釈放され、ニューヨークで時計店を開いた。日本で『ケネディー収容所』(1983)を出版している。なお中南米諸国から合衆国へ強制移住させられた日系人がアメリカ政府に対して起こした謝罪・補償要求訴訟は、1998年6月にようやく和解が成立している。

西は6編の創作と2編の紀行文を書いている。西が創作の中で描くのは、多民族社会の生活の中で生まれる日本への回帰志向と日本人ペルー移民の悲劇である。

「第二の脱船」(第6号)はアフリカ系の妻を持つ一世を通して典型的な、日本への強い郷愁を描いている。「孤影」(第2号)では主人公がメキシコ系の妻と息子の許を去り、衝動的に日本行きの飛行機に乗る。

「写真」(第4号)は一人の日本人ペルー移民が辿った失意の人生の物語である。ペルー移民としての西の体験が生かされた非常に優れた作品で、合評会でも高く評価された。主人公は生活の苦しさからペルーに渡り順調な商売をしていたが、日米開戦後に逮捕されてアメリカの収容所へ送られ、戦後日本へ帰って再出発を期したものの失意のうちに病死する。このような人生を物語る時間的空間的スケールは大きく、技法的にもそれが成功している。

「インカの廃墟を訪ねて」(第9号)は旅行中の見聞と思索が結びついた、優れた紀行文である。荘厳な大遺跡との感動的な出会いが描写され、インカ帝国興亡の歴史から学ぶ弱肉強食の歴史観・世界観が述べられ、アメリカ政府が引き起こした、戦時中の日本人ペルー移民の不幸な体験が強く暗示される。変わらぬ大自然と興亡を続ける民族そして人間の姿を対比する中に、一種の諦観、無常観が感じられる。

西野鉄鎚(本名は西野喜一)(1889-1963)は滋賀県出身である。1910年、サンフランシスコへ行き美術学校で彫刻を学んだ後、炭鉱や鉄道、アラスカ鮭罐詰会社での労働、家事労働など様々な仕事を経験して1920年頃、ニューヨークへやってきた。そこで家具制作に従事し、その技術を高く評価された。 

西野は8編の創作と1編の狂言を発表している。彼はマルキストとしての立場を明確にして労働者の生活を、また反戦平和、反軍国主義、反人種差別を実践する人々を描く。「マシコの罐詰会社」(第7号)は戦前、日本人青年が中国人やポルトガル人とともに季節労働者としてアラスカの罐詰会社で働いていたときの厳しい生活を明らかにする。この「マシコの罐詰会社」には被差別部落に対する人権上不適切な表現があるので、注意を喚起しておきたい。「凧に尻尾があった話」(第2号)は日本の軍国主義、中国への侵略に反対するニューヨークの「下町のアカ」たちの話である。狂言「鵺者」(英語の原文を秋谷一郎が翻訳)(第9号)は日本の演劇様式を用いて黒人差別の撤廃を迫っている。西野の作品は主張点が明確であるが作品としての構成上のまとまりを欠き、表現が素朴で政治的イデオロギーが生のままで展開されるなど、問題点も多い。

橋本京詩(本名は橋本清)はロサンゼルス生まれの帰米二世である(篠田左多江「『怒濤』解説」『日系アメリカ文学雑誌集成3』)。福井県で育てられ、立教大学で学び、太平洋戦争開始直前にアメリカへ帰った。戦時中、トゥーリレイク収容所で青年団の機関誌『怒濤』の編集に携わっている。戦後はニューヨークに住み、クリーニング業を営んだ。現在もニューヨークで健在である。

橋本は5編の創作を発表している。いずれも性に焦点を当てて男女の愛を描いている点が特徴である。例えば「雪子」(第7号)は19歳のとき日本で出会ったアメリカ兵とニューヨークで再会する物語である。この中で、かつての二人の熱烈なデートや兵士たちと旅館従業員たちとの性を目的とする集団パーティーの様子が煽情的に描写される。「国境の南」(第6号)では収容所における著名な歌手との恋、そして彼女の死後はその娘との恋を描いており、ここでも長い官能的描写が見られる。さらに「碧眼夜叉」(第4号)では猟奇的要素が加わる。妻の浮気を想像して嫉妬する男の眼は手術によって碧眼となり、顔半分は黄疸色である。

男女の愛が文学の最も重要なテーマの一つであることは誰も否定できない。しかし橋本の作品を読むとき、安易な性描写が多くあるために、彼が男女の愛を通して何を訴えたいのか良く分からない。生きることの意味を問う姿勢が、人間を社会的存在として捉える意識が、人間の尊厳に対する認識が、弱いといえる。このような弱さを露呈したのが「男性遍歴」(第5号)である。この作品は被差別部落への偏見と差別を助長する作品となっている。

「男性遍歴」はニューヨークを流れる河で女性の死体が発見されるという場面から始まる。そして彼女が自殺するまでの経過として自由奔放な男性遍歴が明らかにされ、彼女が被差別部落出身であると述べられる。しかし主人公が被差別部落出身でなければならない必然的な理由は何も示されない。読む者にとって唐突な感じを与える安易な結びつけである。そもそも主人公がなぜニューヨークへやってきて、下町で働くようになったのかの説明がないのは、物語の展開の上、不自然といえよう。また主人公の郷里における被差別部落の人々の集会の描写も否定的な描写であり、偏見を助長するものである。最後の主人公の自殺も唐突である。つまり、この作品は生きることの意味を性の世界の中にのみ求めて人生を終えた女性を主人公とし、そのような主人公を安易に被差別部落と結びつけているのである。渡辺巳三郎によれば「大衆通俗文学の作家は、何故比較的多くの部落問題文芸作品を書いたのか。ひとつには思いも掛けぬ突飛な局面を切り開く道具として使われたり、猟奇的興味から取り扱ったのだろう」(『近代文学と被差別部落』、1993)という。この見解は「男性遍歴」においても説得的である。

その7>>

* 篠田左多江・山本岩夫共編著 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。

© 1998 Fuji Shippan

Japanese literature new york NY bungei postwar

Sobre esta serie

日系日本語雑誌の多くは、戦中・戦後の混乱期に失われ、後継者が日本語を理解できずに廃棄されてしまいました。このコラムでは、名前のみで実物が見つからなかったため幻の雑誌といわれた『收穫』をはじめ、日本語雑誌であるがゆえに、アメリカ側の記録から欠落してしまった収容所の雑誌、戦後移住者も加わった文芸 誌など、日系アメリカ文学雑誌集成に収められた雑誌の解題を紹介します。

これらすべての貴重な文芸雑誌は図書館などにまとめて収蔵されているものではなく、個人所有のものをたずね歩いて拝借したもので、多くの日系文芸人のご協力のもとに完成しました。

*篠田左多江・山本岩夫 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。