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二つの国の視点から

ジャニス・ミリキタニ~言葉の力を信じて、奉仕活動を続ける詩人-その2

>>その1

4世の娘へ伝えたいこと

Sing the melody of your own life! (自分自身の人生のメロディをうたえ)という、ミリキタニのスピーチの締めくくりの言葉は、彼女が書いた「Letter to my daughter(娘への手紙)」という詩を思い起こさせる。以下、抄訳。

娘への手紙
 怪我の痕は記憶されるにちがいない
 物語に耳を傾けなさい
 私たちは 自分たちが書く本の 自分たちが作曲する歌の
 そして自分たちが主張する証言の主人公
 それらは私たちの人生を救い、あなたに自負を与える
 それらはあなたに公平な手を差し伸べる(中略)
 娘よ、私はあなたに何を望む?
 それらの手を結ぶ勇気
 なぜならあなたの側の紐の端はもう一方と固く結ばれているから
 苦しんでいる人々 飢えている人々 知られざる人々
 そして勝利している人々と
 ひとつの端からもうひとつの端へ 母、祖母、そしてあなた
 彼女たちの闘いがあって 私たちは今生きながらえている
 彼女たちの愛が あなたの可能性を生み出した
 娘よ、私はあなたに何を望む?
 結び続けること
 ひとつの世代から次の世代へ これらの記憶の糸を
 公正にお互いを結びつけること
 愛で繕うこと
 そしていつも
 自分自身の声で
 自分の歌をうたうこと

日系社会は、1世、2世の沈黙の世代から、3世のものを言う世代に変わった。4世の娘には、これまでの日系人の歴史を踏まえて、自分の主張をしなさいと訴えている。記憶のバトンをつなぐのは自分たちの役割だ。自分たちの役割も大きい、とミリキタニは言っているように聞こえる。

弱きものへ手をさしのべ続けた45年間

ミリキタニには、詩人のほかにもう一つ、社会活動家という重要な顔がある。サンフランシスコのテンダーロイン地区にあるグライドメモリアル教会というメソジスト系の教会での活動だ。彼女はこの教会の司祭であるセシル・ウィリアムズのパートナーで、貧しく社会的な地位が確立できていない人々や子供に対して、教育、学童保育、カウンセリング、職業訓練、HIV検査、麻薬・アルコール中毒回復プログラムなど、さまざまな活動を無償で提供している。食事の配給も行われており、その数は一日3000食、年間で100万食にのぼる。

活動のプログラムは50を超え、そのディレクターをしているのがミリキタニである。彼女がこの教会で活動を始めたのが1965年だから、今年で45年。息の長い奉仕活動に頭が下がる。教会の年間予算が1100万ドル(約11億円)で、職員は230人、ボランティアは35000人を数える。

私も数年前にこの教会を訪れたことがあるが、日曜日ともなると、大勢の人が集まる。オルガンでなくキーボードの演奏が流れ、聖歌隊がゴスペルを歌いながらステージに上がって礼拝が始まる。「死を思い起こさせる」という理由で十字架を置いていない珍しい教会だ。

2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、アラブ系の人が移民帰化局(INS)に逮捕、拘留されるケースが多発した。ミリキタニを含め、戦争を体験した多くの日系アメリカ人は、60年前に自分たちがアメリカ政府から強制収容された歴史を思い出した。2003年1月10日、INSに抗議するためにサンフランシスコのINSの前で抗議集会が開かれ、セシル・ウィリアムズとジャニス・ミリキタニ夫妻も参加している。

『Awake in the River』

グライド教会に救われた人は数限りない。なかでも、以前、ホームレスだったクリス・ガードナーが息子とともにグライド教会の支援を受けて自立し、ウォール街のプリンスと呼ばれるまでになった物語は、2006年、彼自身によって『The Pursuit of Happyness(邦題『幸せのちから』)』のタイトルで出版され、同年に映画化もされた。映画はウィル・スミス主演で、ミリキタニとウィリアムズも参加している。ちなみにHappynessという綴りは間違いではなく、ガードナーの息子の託児所の落書きにあったスペリングミスからとられている。同時にアメリカ独立宣言にあるThe pursuit of happiness(幸福の追求)のもじりでもあり、邦題では言い表せない、意味深長なタイトルとなっている。

詩の美しさとその力を信じて

ミリキタニは、これまでに、『Awake in the River』『Shedding Silence』『We, the Dangerous』『Love Works』と、4冊の詩集を出し、2000年にサンフランシスコ市から「桂冠詩人」の称号を得た。『Love Works』は、その時に行ったスピーチから始まっている。

「詩は我々を結び付け、我々を変える力を持っている」で始まるそのスピーチは、言葉が持つ力と美を繰り返し訴えている。女性、日系アメリカ人、虐待された子供たちなどに押し付けられた沈黙を、言葉で打ち破っていくことが彼女の最大の関心事だ。

『I Have Something to Say About This Big Trouble』

1989年にミリキタニが夫君と編集した『I Have Something to Say About This Big Trouble(この大きな問題について言いたいことがある)』は、グライド教会の子供たちが麻薬や人種差別、戦争などについて語った文集である。とりわけ麻薬について書かれたものが多く、彼らの内なる声が聞こえてくる。

現在、日本で詩が果たしている役割は非常に小さい。「詩のボクシング」なんていうイベントはあるが、娯楽性が高く、人を、あるいは社会を変革する力には至っていない。言葉が持つ力が減退しているのかもしれない。だが、ミリキタニのような社会的実践を兼ね備えた詩人が日本にいたら、詩は大きな力になる可能性を秘めているように思う。

(敬称略)

※本文中の詩の訳は筆者による。


ミリキタニの詩集
* Awake in the River, Isthmus Press, 1978
* Shedding Silence, CELESTIAL ARTS, 1987
* We, the Dangerous, CELESTIAL ARTS, 1995
* Love Works, CITY LIGHTS FOUNDATION, 2001

参考資料
* 『ミリキタニの猫』 映画パンフレット 2007
* I Have Something to Say About This Big Trouble: Children of the Tenderloin Speak Out, Cecil Williams and Janice Mirikitani, Glide World Press, 1989
* A Japanese American Poet Who Sings Compassion, Mie Hihara, 『立命館言語文化研究』2巻, 1991
* 「娘に送るメッセージ」『女たちの世界文学 ぬりかえられた女性像』桧原美恵 松香堂  1991
* Four Generations of Japanese American Women in the work of Janice Mirikitani, Kyoko
Nozaki, 『京都産業大学論集20』 1993
* 「日系アメリカ人フェミニスト作家の挑戦」『学宛』687号 吉原令子 昭和女子大 1997
* 「娘から母のフェミニズム」『学宛』698号 吉原令子 昭和女子大 1998
* 「ジャニス・ミリキタニにみられる他者」『昭和女子大学女性文化研究所紀要』第23号 吉原令子 1999

参考映像
* Why is preparing fish a political act?, Russell Leong, Center for Asian American

Media, 1991
* 『ミリキタニの猫』リンダ・ハッテンドーフ監督 配給:パンドラ 74分 2006
* 『幸せのちから』ガブリエレ・ムッチーノ監督 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 117分 2006

参考ウエブサイト
* グライドメモリアル教会のサイト。
* ミリキタニの詩、Shadow in Stoneを原爆の映像とともに収録。
* 1999 年にミリキタニがLifetime Achievement Awardを受賞したときのスピーチなどを収録。

*本稿は、時事的な問題や日々の話題と新書を関連づけた記事や、毎月のベストセラー、新刊の批評コラムなど新書に関する情報を掲載する連想出版Webマガジン「風」 のコラムシリーズ『二つの国の視点から』第9回目からの転載です。

© 2010 Association Press and Tatsuya Sudo

Janice Mirikitani poet

Sobre esta serie

海外に住む日系人は約300万人、そのうち在米日系人は約100万人といわれる。19世紀後半からはじまった在米日系人はその歴史のなかで、あるときは二国間の関係に翻弄されながらも二つの文化を通して、日系という独自の視点をもつようになった。そうした日本とアメリカの狭間で生きてきた彼らから私たちはなにを学ぶことができるだろうか。彼らが持つ二つの国の視点によって見えてくる、新たな世界観を探る。

*この連載は、時事的な問題や日々の話題と新書を関連づけた記事や、毎月のベストセラー、新刊の批評コラムなど新書に関する情報を掲載する連想出版Webマガジン「風」 からの転載です。