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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

地域社会と行政の橋渡し:外国人を代表する会議 - 自治体の外国人代表者会議と集住都市会議

外国人を代表する会議とは

90年代はニューカマーの外国人が大量に来日し、定住するようになった時期であり、アジア諸国ではなく南米からの外国人が増えたことが特徴であ る。入管法の改正で日系人が労働市場に現れ、デカセギ労働者といわれながらも、今は定住化しつつあるため、移民労働という位置づけの方が適切である。戦前・戦後海外に移住した日本人の子孫だが、国籍も、文化的背景も、習慣や価値観も異なり、そして日本語の知識も乏しく、日本での生活は思ったより摩擦と不理 解が生じたのである。

かなり初期の段階から自治体行政も対応に乗り出し、国も労働省(今の厚生労働省)を通じて相談センター等を設置した。生活ガイドブックは多言語で大量に発行、配布され、日本語教室も国際交流会や民間団体によって各地で開催されるようになった。

日本としても短期間にこれだけ多くの外国人を受け入れたのは歴史上初めてで、その対応に追われた行政の足並みも揃わなかった。群馬県大泉町のよう に行政手続の関係資料の多くをポルトガル語に翻訳して対応したところもあれば、限られた予算で相談員のみを配置してところもある。問題は、いつまで、どの 程度、多言語で行政サービスを提供したらいいのかというジレンマに陥っている機関が多いことだ。

他方、外国人住民からもさまざまな要望が国際交流協会や自治体の相談窓口に届けられるようになったことから、川崎市が初めて1996年に条例によって、外国人を対象に、外国人が「主役」になって議論する会議を設けた 。その次の年に東京都が設置し、1998年12月には神奈川県が「外国籍県民かながわ会議」を設けた 。筆者はこの会議の第一期目の委員だが、多くの諸問題を他の外国籍委員と議論し、情報交換し、行政の協力を得て勉強会や視察等を実施して実態把握と施策提言に務めた。その時の提言により、医療通訳の育成と派遣を行うようになった「MICかながわ」がNPO法人として誕生し 、不動産関係の相談を専門にした「かながわすまいサポートセンター」も設置されたのである

他の自治体でも外国人代表者会議というような諮問会議が設置されるようになり、その形態は様々である 。委員が全員外国人 の会議もあれば、日本人識者と一緒のものもある。推薦によって任命されるのもあれば、公募もある。基本的には問題提起をし、当事者間の認識を共有すること によって外国人との共存・共生を目的とした提言等が盛り込まれるようになり、時には自治体の関連施策にも反映できるよう吟味する内容もある。

外国人委員の中には他の諮問委員会にも参加していることで、間接的にだが、日本の国際化に有利な施策を講じることもある(観光促進や公営団地へ入居条件の緩和等)6 。 当然、大きな課題については国の法制度にまで関係してくるが、外国人の中にはこうした場を自治体との駆け引きと影響力行使の場として捉えている者もいるた め、委員同士の対立や見解の違いも露呈する。日本側に外国人に対する明確な統合政策、戦略的な多文化政策がなければ、そうした施策の事業拡散と財政負担増 のみが一人歩きする結果を招いてしまう。

自治体行政は、外国人である当事者からも案や知恵を求める。しかし、このニューカマー(南米の日系人、フィリピン等)が来日し始めてから18年、 当初から指摘されているゴミの分別・出しかた、団地や集住地区での騒音、子弟の未就学、税(国保をも含む)の滞納、等々が未だに議題になっている。これを 考えると、これまでの自治体国際化政策、そして近年注目されている多文化共生政策はあまり大きな効果がなかったとみることもできる。外国人の自立支援と言 いながら、中には自立を妨げている仕組みも多々あり、こうした会議がむしろ自治体や関連団体の予算確保と拡充になっているのではないかと疑ってしまう要素 もある。理念なき施策を多面的にすべての「課題」に対してやっていても効果は乏しく、そのうえ当事者からはあまり感謝されないのである。

以前から指摘しているように、「頼まれていないことはやらない」、「必要であるように見えても先に実態調査をし、重点的に問題解決になるところに 支援をする」というのが筆者の考えだが、支援事業の名称を変えても結局これまでほとんど同じようなことを繰り返しやっているだけで、根本的に何も解決して いない、いや解決から益々遠ざかっているような気さえする。

外国人集住自治体のニーズを代弁する会議とは

南米の日系就労者が増えるにつれ、一部の自治体がさまざまな問題解決のために連携を深めるために設立したのが「外国人集住都市会議」である 。 2001年5月に第1回目が静岡県の浜松市で行われ,その後次第に加入都市も増え、現在26の都市になった。毎年、自治体が交代で全体会議を行い、提言や 宣言を発表する。中央省庁の官僚や財界の代表者も迎えられ、各課題について要望書を提出する。2008年の会議は岐阜県の美濃加茂市が事務局であるが、東 京で開催され政府に対するアピール力を強化した。

集住都市会議 美濃加茂市主催 東京で開催された。(写真提供:アルベルト松本)

筆者もこれまでいくつかの会議に出席し配布資料に目を通してきたが、この会議は「ブラジル人集住都市会議」と名付けた方がいいと言える。2008年 末現在の会員都市のデータをみる限り、7県(群馬県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県)26都市で構成されているが、国籍別登録者の上位 はすべてブラジルである。二番目、三番目に中国・韓国、フィリピンとペルーがみられるが、絶対数からいうと非常に少ない。特徴的なのは、その自治体の人口 比率から外国人の人口が多いということと、その中でもブラジル人が圧倒的に多いということである

二つの課題に言及するが、一つは社会保険未加入問題である。この会議は外国人の雇用形態にあった年金の掛金と分離した保険制度を求めているようだ が、外国人を対象に制度を完全に変えることは容易ではない。日本の年金制度もさまざまな問題を抱えており当然万能ではないが、南米諸国の未熟な制度より信 頼性は高く、障害年金等はけがや病気で働けなくなった時のために給付が完備されている。「数年で国に帰るから入りたくない、掛けたくない、掛金が高過ぎ る」、というこうした労働者の言い分はあまりにも身勝手といえる側面もある 。また、すべての外国人が別枠の年金制度を要求しているわけではないのである。

もう一つはブラジル人子弟の未就学問題である10 。集住都市会議の要望書を読む限り、バイリンガル教員または補助員の増員 や母語教育の必要性等を掲げている。また、外国人学校への支援や各種学校認定の諸条件緩和等が指摘されてきた。実際、後者の条件はかなり緩和されたが、タ ケノコのように増えたブラジル学校はすべて私塾で、教員の質も、学校責任者のマネージメント能力も、わずかな例外を除いて、低いと言わざるを得ない。ブラ ジル政府(教育省)の認定を受けているのが100校近くのうち約半分ほどで、財政基盤も脆く、教員の質も処遇も低く、その結果現場の努力にも関わらず本国 の義務教育の質には到底及ばない状況にある。このような状態をつくってしまったのは、理念も明確移民政策もない国の責任である。

国への提言 これは労働者たちの日本語取得制度の要望である。(写真提供:アルベルト松本)

日本政府の責務は、こうした外国人子弟にも義務教育を保障することであり、制度の中で日本語のサポートを行いながら日本人に近づけるような教育を実施することである11 。今の時点ではすべてが間接的な支援であり、社会に統合するという積極性に欠け、いつでも帰れるように安易に外国人学校を容認していることは単に責任逃れでしかない。

また、一部の自治体や外国人団体が求めている母語教育支援(ポルトガル語取得)は完全に筋違いである。ブラジル人コミュニティ内で自らの財源や教 員確保によってポルトガル語を取得するというのは全く問題ないのだが、教育の一環として日本側がそうした要望を実行に移すというのは多文化共生の歪みであ る12 。南米に移住した日本人たちは確かに移住地や都市に日本語学校を設立し、継承言語として日本語教育に尽力されてきたが、その 移住先の政府にそうした非常識な援助を申し入れるなんて思いつきもしない。メキシコやアルゼンチンには認定されたスペイン語と日本語のバイリンガル学校は あるが、それは正規の教育機関として厳しい諸条件をすべてクリアしているからである13

移民受け入れの経験に乏しい日本は、基本の基本を理解していない部分があり、不必要な配慮や支援策が年金未加入問題や子弟未就学問題の解決をさらに複雑にしている。

集住都市会議のもう一つの限界は、すべての外国人、そして外国人が多く居住しているすべての主要自治体をカバーしていないことである。神奈川県の川崎市 も、横浜市も、藤沢市も、大和市も、愛川町も、そして千葉県も埼玉県も東京都も参加していない。こうした自治体は政治的パフォーマンスの多い集住都市会議 とは異なるアプローチと施策を実施しており、問題解決に努めている。

多文化共生という概念はその中に含まれている全てのものが「善」であるかのようにみられがちだが、諸問題の本質を曇らせてしまう結果を招いてしま うリスクもある。また、筋違いの施策は、逆に外国人が移民または地域住民として履行しなければならない責任と努力を無にしてしまう恐れさえある。2008 年4月、スペインのコルバチョ労働•移民大臣が就任した際、「スペイン各地の街や地区に移民の存在がみられるが、最後に入ってきた(住民登録した)ものが 社会生活のルールをつくったのでは共存というものは機能しない」と指摘し、スペインの文化や社会的規範を理解することが先決だと強調したのであ14

注:
1. 川崎市外国人市民代表者会議
http://www.city.kawasaki.jp/25/25zinken/home/gaikoku/kaigi/index.htm

2. 神奈川県「かながわ外国籍県民会議」
http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/kokusai/seisaku/gaikokuseki/gaikokuseki-index.htm

3. MICかながわ「多言語社会リソースかながわ」NPO法人
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/closeup/178_1/index.html
http://mickanagawa.web.fc2.com/top_page.html

4. かながわすまいサポートセンター NPO法人
http://www.sumasen.com/

5. 外国人の会議−全国の会議(明治大学山脇教授のサイトによるもの)
http://www.kisc.meiji.ac.jp/~yamawaki/kyosei/gaikokujinkaigi.htm
その他の自治体にも設置されている。

6. 在日韓国人や中国人等はそのビジネス活動にも関係して観光産業やまちづくり関係の諮問委員会に参加している。筆者も、2001年から2年間神奈川県の「住宅政策懇話会」の委員を務め、その後横浜市の「国際性豊かなまちづくり委員会」の委員を二期務めた。

7. 外国人集住都市会議
http://homepage2.nifty.com/shujutoshi/
http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/admin/policy/kokusai/conferenceindex.html

8. ブラジル人登録者は32万人相当とされており(2007年末の入管統計)、この26都市のブラジル人人口は128.167名になる(約半分)。ペルー国籍は約6万人であるが、これらの都市には5.924名しかいない。

9. 南米諸国では域内及びイタリアやスペインと社会保障協定を締結しているが、不法就労者や本国でも年金を納めていないものが多いため、その効果は非常に限定的である。
日本には、外国人向けの「年金脱退一時金制度」というものがあり、これを利用しているブラジル人は多い。還付されるのは最高36ヶ月分だが、政府として もそれ以上拡大することは年金制度の趣旨に反するという理由で消極的である。年金については、日本人の非正規労働や派遣労働者にとっても不備が多いことが 近年指摘されており、国民年金の未加入、滞納者の増加が社会問題となっているので制度の見直しはそうした側面から行われるのかもしれない。

10. ペルーやフィリピン国籍の子弟もそうした状況にないとはいえないが、基本的に日本の学校に通っており、自治体の「大きな課題」にはなっていない。ブラジル 人の場合、平均でも20%がそうした状況にあり、中学になるとその比率が倍以上になっているという調査結果もある。高校への進学はまだ全体的に低く、一割 程度しか卒業していないようである。

11. 南米日系人の日本語教育と在日日系就労者指定のスペイン語教育
http://www.ideamatsu.com/nihongo/nikeijin/1100-4-1.htm

外国人子弟:義務教育を義務化するしかない「Musashi Nº51, 2006, abril」
http://www.ideamatsu.com/nihongo/nikeijin/1100-1-25.htm (日本語)
http://www.ideamatsu.com/educacion/200-6-5.htm (スペイン語)

その他、日系人関係の記事やコラムについては筆者のサイトを参照:
http://www.ideamatsu.com/nihongo/nikeijin/indice-nikkeijin.htm (日本語)
http://www.ideamatsu.com/educacion/edu-indice.htm (スペイン語)

全米日系博物館「Discover Nikkei」のサイトにも筆者の日系人に対するコラムが多数掲載されている。
http://www.discovernikkei.org/forum/ja/taxonomy/term/98 (日本語)
http://www.discovernikkei.org/forum/en/taxonomy/term/99 (スペイン語)

12. 多文化共生政策の中で外国人独自の文化や言語を尊重するということは重要であるが、それと自治体がそうした集団の母語継承に間接的(国際交流協会等の助 成)であっても公的資金を導入することは問題である。民族教育等を尊重することと義務教育を保障するということは矛盾しないが、後者を優先すべきである。 ブラジルやペルーでは当然のことであり、そうした国で一般の日本語学校や韓国人学校は単なる私塾であり、正規の地元学校に相反することはない。この日本で も、ペルー人やブラジル人が積極的にこうした事業に行政の支援を求めている訳ではない。

13. 日本人移民の功績によって地元政府が多少便宜を図ったことはあるかもしれないが、外国人コミュニティーの学校のために資金を提供することはあり得ないことである。

14. この発言はラジオやテレビ、各メディアで取り上げられた。スペイン語では、「"El fenómeno de la inmigración se coloca en una escalera, se coloca en un barrio y se coloca en una ciudad, pero mi opinión es que ni la escalera, ni la ciudad, ni el barrio, pueden funcionar nunca con la norma del último que se empadrona".」とある。

© Alberto J. Matsumoto

Sobre esta serie

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。