Tomoko Yamaguchi

文学博士(アメリカ文学)。テクストおよびその周辺を読むことによって、社会の諸相を読み解くことを目指している。アジア系アメリカ作家、とりわけ日系作 家による作品を読んでいる。主な研究成果は、共著『アジア系アメリカ文学を学ぶ人のために』(世界思想社、2011年)、共著『エスニシティを問いなおす』(マイグレーション研究会編、関西学院大学出版会、2012年)など。

(2013年6月 更新)

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Dale Furutani にみる新たなアメリカニズムの予兆

日系アメリカ人三世デイル・フルタニのもっとも顕著な特徴は、その作品暦の変遷である。自身の経験に基づき日系の歴史や現在を描いた「ケン・タナカ」時代から、江戸時代のサムライ小説「マツヤマ・カゼ」時代、そして明治期日本を舞台にした「シャーロック・ホームズ」時代へという変貌は、きわめて特異であると同時に、米国内のエスニック文学をめぐる諸相の変化を反映するものである。

フルタニは1946年ハワイ島ヒロに生まれ、5歳の時に一家でカリフォルニアに移住し、カリフォルニア州立大学で創作の学士号を、UCLAにて経営学修士を取得する。学生時代から各種雑誌に数多く投稿し、早くから書くことに才能を発揮したフルタニだが、壮年期は経営コンサルタントとして多忙な日々を送り、初の長編ミステリ ...

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来日就学生物語 ~マイグレーション研究会メンバーによる移民研究~

第4回(後編) 彷徨(咆哮)する魂 ―帰米作家あべよしおの軌跡―

>>前編

3. あべの特異な作品世界

1972年に出版された3巻本『二重国籍者』の、第1巻はサンタ・アニタの仮収容所が、第2巻はグラナダ転住所が舞台であり、第3巻はインドでの連合軍情 報部員としての生活が描かれる。つまり自伝的とはいうものの、あべが3巻を費やし克明に描いたのは収容所時代と続く数年のみである。帰米としての波乱に満 ちた生涯のなかで、特に収容所生活を描こうという明確な意図があったわけだ。しかし出版当時はまだ一般に収容所体験が語られることがなく、ほとんど無視さ れる結果となった。別の言い方をすれば、内容と出版時期がうまくかみ合わなかった不運な作品ともいえるだろうか。

しかし何といっても『二重国籍者』を他と一線を画する作品と感じさせ、収容所を描いた作品を読みなれた読者にも一種異様と映る要因は ...

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来日就学生物語 ~マイグレーション研究会メンバーによる移民研究~

第4回(前編) 彷徨(咆哮)する魂 ―帰米作家あべよしおの軌跡―

1. 帰米二世の光と影――あべよしおと秋谷一郎

「あべよしお」なる帰米二世作家をご存知だろうか。その作品世界は熾烈で容赦なく、その人生は壮絶な闘いの日々であった。帰米という経験の闇の部分を誰よりも深く抉り出し、「自分とは何者か」という問いを過酷なまでに自らに問い続けた。書くことに救いを見出そうと同人誌を立ち上げ、生涯にただ1冊の自伝的大著を著した。しかし満を持してのその作品も世間に注目されることはなく、失意のうえ病魔にも冒されたあべは、妻と共に自死して果てた。没後30年近く経った現在、唯一の著作『二重国籍者』は絶版になって久しく、出版社も無くなっている。今回は、この忘れられた異才あべよしおに光をあてたい。

ところであべは、シリーズ第2回に登場したカール秋谷一郎 とほぼ同年齢 ...

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