移住地に暮らした人びとが、そもそも日本を出ることになった理由はさまざまだ。
ブラジルに来ることを決めたいきさつを話してくれるKYさんの脳裏には、ある映像が鮮明に蘇るようだ。
KYさんの故郷は山の中にあった。村人の暮らしは山とともにあるといってよいようなところだった。KYさん一家の生業も山仕事だったから、仕事をする年齢になったら山に入るものだと思いながら成長した。そのことに抵抗があるわけでもなく、疑問を感じたこともなかった。
ここでこのまま大人になるのはなんとも気がすすまないと感じるようになったのは、十代半ばを過ぎた頃だったという。きっかけは、学校帰りにしばしば遭遇するようになったある光景だった。
通学路に山の入り口があった。山仕事の男たちはそこから山に入り、何日も木を伐り、伐った木を運び出したりして働くのだ。男たちのそんな姿が、KYさんにはおなじみのものだった。
ところがある時期から少し様子が変わってきた。
学校の行きかえり、KY少年は、山の入り口のところでたむろする大勢の屈強な男たちを見かけるようになる。男たちは山に入ろうとせず、明るいうちか ら酒を飲み、博打に興じていた。その様子はなんとも不健全で、あたりに近寄りたくない雰囲気を醸し出していた。仕事もせずに遊び暮らす大人たちの姿に、少 年はひどく失望を感じた。
「もうあと何年かすればあの中に入らなければならないかと思うと、嫌で…