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『若人』 -帰米二世文学の芽生え- その1/5

1. 『若人』創刊の地 ―ヒラリヴァー収容所―

『若人』が生まれたヒラリヴァー収容所、正式にはヒラリヴァー戦時転住所(以下ヒラとする)は、アリゾナ州のピマ・インディアンの居留地のなかにあった。第一次世界大戦中に戦死したピマ族の兵士の名に因んで名付けられたこの地には、アメリカ先住民が細ぼそと農業を営んでいた。ここはフェニックス市内から約64キロメートル離れており、外部の者との接触がほとんどないことから日系アメリカ人収容所の立地条件を満たしている。収容所は第一と第二の二つ区域に分かれていた。第一、第二と呼ぶのでは味気ないというので、第一は運河のそばにあったため「カナル」、第二は西側に溶岩丘があったことから「ビュート」と呼ばれることになった。殺風景な収容所を少しでも潤いのある所にしようと、収容者はカナルを日本語で「川の市(まち)」、ビュートを「山の市(まち)」と呼ぶようになった。「川の市」は85ヘクタール、「山の市」は117.1ヘクタールで、両収容所の間は約6キロメートルの距離があった。徒歩で約一時間を要するため、1943年になると往来を円滑にすべく午前7時45分から30分おきにシャトル・バスが運行していた。

最初に入った者は、1942年2月20日、トゥーレアリ仮収容所からの任意入居者520名であった。その後、おもにトゥーレアリ、ターロック、サンタ・アニタ仮収容所から人びとが送られ、移動は同年10月までに完了した。12月の調査によれば住民は男子8,195名、女子5,123名で圧倒的に男性が多く、男女比が著しくアンバランスであった。この中で帰米二世は約1,000名と推定される。ほとんどの収容所では外装に黒いタールぺーパーが使われていたため、全体的にくすんだ暗い印象を与えたが、ヒラの建物は屋根が赤いタイルだったため明るい雰囲気であったという。「山の市」は完全な砂漠で、巨大なサボテンが点在するのみで殺風景であるが、「川の市」は豊かな水をたたえる川と水辺の植物があるために、いくぶんか潤いが感じられる。

海抜457メートル、気温は冬が摂氏マイナス6.7度から15.6度、夏が摂氏26.7度から47.2度と温度差が大きいが、夏は長く暑いわりに冬は短く、寒さもそれほどひどくなかった。降雨量は年間わずか254ミリで、完全な砂漠地帯である。強い風が吹くと巻き起こるひどい砂嵐と、夏の雷が人びとを悩ませたという。灌漑用水路の整備の遅れなどもあり、慢性的な水不足に悩まされていた。

ヒラリヴァー収容所全景

収容所に落ち着くとまず、人々が努力したのはいかに住みよい場所にするかということであった。日本人は身のまわりに花や緑がないと精神的に落ち着かないようだ。人びとはこの不毛の地にコットンウッドを植えて、緑を増やす努力をした。1942年10月には60名のボランティアが35本のコットンウッドを植えた。この木は4メートルの高さになり、夏には人びとが憩う緑陰を作ったというが、この木は今でも跡地に残っている。また、それぞれのバラックで庭園造りも盛んだったようで、家の土台とともに、ひょうたんなどさまざまな形の池の跡も残されていて、人びとの努力を物語っている。のちには庭園部が設立され、柑橘類を中心に150本の苗木を植えて並木を作り、43年には「川の市」に楡の木200本が植えられた。さらにリヴァーズ種苗園ができて、花が栽培された。43年1月にはスイートピー、カーネーション、菊などが咲き、1月末には生花店が開店した。人びとの日常生活を飾るほど多量の花はなかったと思われるが、冠婚葬祭やパーティに使う花は予約すれば手に入れることができた。

戦時移転局は日系人の多くが優秀な農業専門家であることに注目し、収容者の食料の自給自足を計画した。10ヶ所の収容所のうち、土壌が農業に適さなかったのはマンザナーだけで、その他はすべて開墾されて驚くほど豊かな農地に変った。ヒラでも溶岩丘の東に大農場が完成した。灌漑用水の確保によって、ここは肥沃な農場と化したのである。ヒラでは最初、トゥーリレイクから農産物の供給を受けていたが、のちには自給できるようになった。野菜を作る農場は、チャプスイファームと呼ばれて22種の野菜が植えられていた。とくに外部から種を取り寄せて蒔いた大根が収穫されたときには盛大な「大根祭」が行なわれ、この収容所のおもな年中行事となった。

その2>>

* 篠田左多江・山本岩夫共編著 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。

© 1998 Fuji Shippan

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About this series

Many Japanese-language magazines for Japanese Americans were lost during the chaotic times of war and the postwar period, and were discarded because their successors could not understand Japanese. In this column, we will introduce annotations of magazines included in the collection of Japanese-American literary magazines, such as "Shukaku," a magazine that was called a phantom magazine because only the name was known and the actual magazine could not be found, as well as internment camp magazines that were missing from American records because they were Japanese-language magazines, and literary magazines that were also included by postwar immigrants.

All of these valuable literary magazines are not stored in libraries or elsewhere, but were borrowed from private collections and were completed with the cooperation of many Japanese-American writers.

*Reprinted from Shinoda Satae and Yamamoto Iwao, Studies on Japanese American Literary Magazines: Focusing on Japanese Language Magazines (Fuji Publishing, 1998).

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About the Author

Professor at the Faculty of Humanities, Tokyo Kasei University. Graduated from the Graduate School of Japan Women's University. Specializes in Japanese-American history and literature. Major works: Co-edited and authored "Collection of Japanese American Literary Magazines," co-authored "Japanese Culture in North and South America" ​​(Jinbun Shoin, 2007), co-translated "Japanese-Americans and Globalization" (Jinbun Shoin, 2006), co-translated "Yuri Kochiyama Memoirs" (Sairyusha, 2010), and others.

(Updated February 2011)

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