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世界のなかの日本と世界

フロリダの日本庭園とコスプレ-その2

その1>>

入植当時のフロリダに思いを馳せながら

その日は金曜日ということもあって、空港内のレンタカー・カウンターは長蛇の列。待つことおよそ1時間余、ようやく三菱のセダンで空港を出たのは午後3時半を過ぎていた。この時期のフロリダにしては、それほど暑くはなくさわやかな陽射しがふり注いでいる。

デルレイ・ビーチまではすぐにハイウェイ95号にのって北上した方が時間はかからないのだが、リゾート地として名だたるフォート・ローダーデールのまちを見ようと、まずは海岸沿いを走るA1Aという道に出て、道路の両側につづく南国情緒を醸し出すパームツリーの間を走る車の列に加わった。右には砂浜と薄い青緑の海が見え、左にはホテルやレストランが建ち並ぶ。どちらにも人があふれていた。

フォート・ローダーデールのビーチ沿いを走る

この時期は学生にとってはスプリング・ブレイク(春休み)で、各地から学生たちがフロリダを目指してやってきて騒ぎ、楽しむのは長年の慣習になっていた。なかでもデイトナ・ビーチやフォート・ローダーデールはそのメッカだった。

そうした学生たちも大勢いるのだろう、人通りでにぎわう繁華街を抜けてしばらくすると、海岸線とほぼ並行してゆったりと川が左手に流れている。川沿いには瀟洒な家々が建ち並び、それぞれが桟橋を突き出し、ボートやクルーザーを係留している。なんとも優雅なアメリカらしいリゾートの景色だ。

そろそろデルレイ・ビーチに近づくので、海を離れ内陸へ向かった。そして地図で確認ずみのヤマト・ロードのサインを見つけた。東西に走るこのヤマト・ロードは、あとで知ったのだが、モリカミができるときに、ハイウェイからつながる道としてそう名付けられたのだった。

95号から片側3車線のこの道路に入ってしばらくして、北に向かったところにモリカミは位置する。私はこの日はハイウェイ近くのホテルに泊まり、翌朝、「HATSUME FAIR」の開催に合わせて会場であるモリカミを訪ねることにしていた。

モリカミ・ミュージアムへ

祭りの当日、そのヤマト・ロードに沿って車を走らせると、「YAMATO OFFICE CENTER」というビルがある。道路の名前を冠したのだろうが、Yamatoはなかなか有名なようだ。「MORIKAMI MUSEUM」という案内表示もある。しかし、ホテルのスタッフに「ヤマト・ロードのヤマトは日本語だというのを知っていましたか」と、聞くと「いや、知らなかった」という。

あたりは典型的なフロリダの風景が広がる。平坦で森を切り開いたように開発、造成された住宅地や低層のオフィスビルなどが並ぶ。整然としているさまは、いかにも現代人が合理的にデザインしたという町並みだ。

おそらく半世紀前は、原野に等しかったのではないだろうか。湿地帯が点在するこの地はワニも生息しているし、なにより小さな虫たちが無数に飛び交う。フロリダを走る車のなかにはフロントグリルに細かい網の目のようなマスクをかけて走っているのを以前よく見かけたが、これは虫除けのためだと聞いたことがある。森上氏らはこの地に100年以上前に入植したというのだから、その暮らしぶりは想像を絶する。

あらためて気づく日本文化の魅力

周りの緑が目立つころ、ひとつ道を曲がって、さらに木立に囲まれてカーブを描く細い道を進むと、モリカミの中心となる建物の前にでた。すでに近くでは開園を待つ人たちが並んでいる。あちこちで交通整理などで動き回っているのはボランティア・スタッフだろう。

この建物を抜けた屋外で千栄子さんが、「Tea Ceremony」としてお茶をたてて訪れた客に披露するという場に、三堀夫妻を訪ねたのだが、眼前の光景にはっとした。遠くまでつづく水辺とそれを囲む植栽。想像していたよりはるかに広い立派な都市公園のような景色が広がっている。

庭園内の中心を占める湖

茶の湯が始まるまでの間、まずは三堀氏に案内されてひととおり回ってみると、日本庭園を形成する要素が随所に顔をのぞかせる。欄干が目立つ橋、曲がりくねった小道や小さな滝壺、そして水を貯めた竹が石をコツンと打つ鹿脅しがある。竹林をつくり岩を配し、石を敷き詰めた石庭もあれば、見事な盆栽がずらりと並べられている一角がある。

ときどきベンチで一服しながら人々は思い思いに散策を楽しむ。スピリチュアルなパワースポットだと考えているのだろうか、龍安寺にあるような石庭の周りでは、集団でなにやら庭に向けて手を掲げている数人のグループがあった。

配布されている資料などからすると、広さは約200エーカー(約24万坪)で、湖を中心にしてそれらをぐるりと回りながら、6つの区域に分かれてさまざまな表情を見せる庭園を楽しむことができる。ざっとまわっても1・2キロくらいの散歩道だ。

遊歩道は行き交う人々でにぎわう

歩きながらふと感じたのは、オレゴン州ポートランドにある日本庭園を訪れたときもそうだったが、日本文化のもつ特性や魅力である。海外に来てようやく思い知るというのもなさけない。しかし、こうした経験をお持ちの方は多いのではないだろうか。だからこそわれわれは日本を離れて日本を見る必要があり、海外で日本文化を紹介する意義もまたあるのだろう。

また、静けさや無という日本文化の魅力についても考えた。日々の暮らしはさまざまな音に満ちあふれ、遊びも含めていつもなにかをすることで時間を過ごす。そうした現代人の生活で、なにもせずただ静かに美しい庭を眺めて過ごす場としての日本庭園が実に味わい深いものだと実感した。

実際、アメリカ人のなかにも、ここへ来て心の病を癒して帰る人たちがいることを三堀氏は教えてくれた。

その3>>

*本稿は、時事的な問題や日々の話題と新書を関連づけた記事や、毎月のベストセラー、新刊の批評コラムなど新書に関する情報を掲載する連想出版Webマガジン「風」(2010年4月30日号)からの転載です。

© 2010 Association Press and Ryusuke Kawai

Cosplay florida Japanese Garden Morikami Museum and Japanese Gardens tea ceremony yamato colony

About this series

咸臨丸がアメリカに渡ってから150年、日本が近代社会へ移行してからいままで、多くの日本人が世界でその足跡を刻んできた。日本の遺産を引き継ぎながら、もうひとつの国や文化を受け入れて生きる。国家という枠組みを超えて日本とつながりをもつ人たちの世界をアメリカを中心に追い、日本人とはなにか、アイデンティティとはなにかを考える。

*この連載は、時事的な問題や日々の話題と新書を関連づけた記事や、毎月のベストセラー、新刊の批評コラムなど新書に関する情報を掲載する連想出版Webマガジン「風」 からの転載です。