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インタビュー: シンガーソングライターKISHI BASHIさん

いつもユニークでいたい 独創的な音を求めて

エレクトロニックなオーケストラ・サウンドと、豊かな高音の歌声、そして日本語を織り交ぜた独特の詞の世界観で、全米で人気を博すKishi Bashiさん。6月16日には、故郷シアトルで凱旋ライブを行いました。ニューアルバムに込めた思いや創作秘話を、ソイソース記者に語ってくれました。

これまで影響を受けた音楽

日本人の両親は共にワシントン大学の学生でした。僕自身は生まれてすぐ、シアトルからニューヨーク州のイサカという街に移り、そこで幼少期を過ごしました。スズキバイオリンの大きな学校があって、そこに通うようになったのがバイオリンを始めたきっかけです。長野県松本市の鈴木鎮一さんが創始者で、今ではアメリカでいちばん有名なバイオリン教室です。バージニア州に引っ越したあとも、高校まではずっとクラシックを弾いていました。でも、その頃にジャズ・バイオリンにどハマりしてしまって。それで大学ではジャズに進んだんです。

アメリカ人はどんな育ち方をしていても、絶対にセンスの根っこの部分にブルースやカントリーのサウンドが混じっていると思うんです。フォークやジャズはラジオからも流れてくるので、聴きたくなくても耳に入ってきてしまう(笑)。僕はアメリカ人なので、そういったアメリカ音楽の伝統は僕のスタイルにも当たり前に大きく影響しています。

ライブの時は必ず蝶ネクタイでキメるというKishi Bashiさん。「バイオリンを弾く僕のフォーマルな部分」

作曲家としては、いつもユニークな存在でありたい。いろんな弦の音を重ねてみたり、音の「テクスチャー」をうまく利用したりして、人とは違う面白い音を作りたいと思っています。だから、僕の音楽のジャンルを定義するのはとても難しいんですよね。

日系人の強制収容体験を織り込んだニューアルバム

アメリカの政治と人種をめぐる現状に危機感を持ち、制作を始めたのが今回のアルバムです。第二次世界大戦中に大統領命令を受け、アメリカに住む日本人、日系人が送られた強制収容所の話をテーマにしています。当時の彼らを取り巻く環境と、現在のアメリカにいるマイノリティーの人たちの状況はとてもよく似ていると思います。対象がイスラム教徒やメキシコ系移民に変わっただけ……。異なる人種や宗教が混在する中で、お互いに思いやりを持たなかったら、同じアメリカ人であったはずの日系人を「敵」とみなし恐怖心を煽った、かつての戦争と同じようなことを繰り返してしまう可能性があると感じます。だからアルバムのタイトル、「Omoiyari」なんです。

実際にワイオミング州のハートマウンテン収容所跡1を訪ね、強制収容の話を体験者に聞くなどしてきました。「Summer of ‘42」や、「Theme from Jerome2 (Forgotten Words)」といった曲は「きっと、こんな出来事がたくさんあったのだろうな」と僕なりに想像しながら作ったもの。表現したかったのは、「愛と喪失」。普遍的なテーマですから、70年以上の時を経た現在でも同じように共感できる。かつての状況と今の状況を、対比しながらも、その感情を通してつなげたかったんです。

ハートマウンテン収容所の様子(1942年8月)(写真:Tom Parker. 国立公文書記録管理局)

アルバムの延長で映画も現在製作していて、来年の大統領選挙に合わせた公開を目指しています。映画では強制収容の問題だけでなく、日本の沖縄戦にも触れています。というのも、僕の母は沖縄の出身で、大叔母がひめゆり学徒隊のひとりだったんです。だから、沖縄にも行ってきました。戦争は本当に恐ろしいもの。歴史を知ることで、今の若い人にもお互いに思いやりを持てるようになって欲しい。そうすれば、差別なんてなくなる。それが、このプロジェクトのゴールです。


震災や原発事故被災者への思いが込められたバイオリン

アルバムジャケットの内側には、詞に加え、Kishi Bashiさん自身の作詞ノートもそのままプリントされている。

今回のアルバムに収録されている「Violin Tsunami」という曲は、日系ブラジル人でバイオリン職人の友人が僕に作ってくれたバイオリンがモチーフになっています。そのバイオリンの名前がTsunami。制作中に東日本大震災が起こり、福島の原発事故の映像を目にしてからは、被災者への思いを込めて作ったそうです。この曲は、自然が引き起こすカオスと、そこからの救済、そして、人間がいかに立ち直れるかということをテーマにしています。

僕はやっぱりアメリカ人で、物に魂が宿るという日本人の神道的な気持ちは、これまでよくわからないでいたんです。でも、彼がすごく強い思いを込めて作ってくれたバイオリンを弾くことを通して、その日本人的な感覚が少しずつわかってきたように思います。

日本語で歌詞を入れることには特に理由はなくて、フィーリングです(笑)。妻が日本人なので、日本語がおかしくないかチェックしてもらっています。同じくジャズ・バイオリニストの妻とは、バークリー音楽院で出会いました。彼女は今はバイオリン教室で教えています。

日本はすごく好き。食べ物がおいしいですよね。ユニクロも好きで、シャツをいっぱい持っていますよ。ライブでも着ます。東京、特に渋谷はエキサイティング。「こんな物があるんだ〜」と、新しい発見があります。アメリカの観客はワイルドで、ライブでも好きなように好きなタイミングで盛り上がりますが、日本の観客は行儀が良い! 決められたタイミングで拍手やリアクションがあります。でも大阪の人はもう少しワイルドで、ちょっとアメリカみたい。僕はそういうの、好きです。

シアトルも大好き。特に夏が最高! やっぱり僕の両親が出会った場所ですしね。またすぐに来ますので、楽しみにしていてください。

ループペダルなどの電子機器を駆使しながらの演奏は、まるで舞台上で踊っているかのようなパフォーマンス。

注記:
1. ワイオミング州ハートマウンテン収容所(Heart Mountain War Relocation Center)には、1942年8月12日〜1945年11月10日の間に1万767名の日系人が送られた。

2. ジェローム収容所(Jerome War Relocation Center)のこと。アーカンソー州に所在し、1942年10月6日〜1944年6月30日の間に8497名の日系人が収容された。

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Kishi Bashi:  シアトル出身の日系2世で、本名はKaoru Ishibashi(Kishi Bashiはその略称)。バークリー音楽院を卒業後、マルチ・インストゥルメンタリスト、シンガーソングライターとして2000年からバンド活動を開始。アメリカン・エキスプレスなど数々のCM音楽も手がける。日本では2012年にアルバム「151a(いちごいちえ)」でデビュー。6枚目となるアルバム「Omoiyari」を5月31日に発表し、全米ツアーを敢行した。現在はジョージア州を拠点に活動。

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*本稿は、シアトルの情報誌「SoySource」(2019年8月8日)と「北米報知」(2019年8月15日付)に掲載されたものです。

 

© 2019 The North American Post

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