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「アメリカで日本の土鍋の魅力伝える」TOIROオーナー 武井モア奈緒子さん

ラブレアの大通りに面している店「TOIRO」

ミックスカルチャーのロサンゼルスへ

その土鍋の店はウエストハリウッドのラブレア沿いにある。ハリウッド方面から南に車を走らせると、店名の「TOIRO」の大きな看板が目を引く。「十人十色のといろから店名を名付けた」と語るのは、TOIROのオーナー、武井モア奈緒子さん。最初、知り合いに「ロサンゼルスに土鍋専門店がある」と聞いた時は、一瞬、意味がよくわからなかった。土鍋だけを扱ってビジネスになるのだろうか? そんなにたくさんの種類の土鍋があるのだろうか? アメリカ人は土鍋を知っているのだろうか? それらの疑問はすべて奈緒子さん本人に会って氷解した。彼女こそ、「アメリカ人の生活の中に土鍋を持ち込むことに成功した張本人」だったのだ。

ウエストハリウッドのTOIROでの奈緒子さん

奈緒子さんは横浜生まれ、東京育ち。大学時代に二度アメリカに留学し、卒業後は日本の音楽業界で働いた。華やかな世界でやりがいを感じていたが、2001年に仕事に区切りをつけて渡米を決行する。

「料理とワインが好きで、1年間、料理の勉強をすることを目的にパサデナ(ロサンゼルス北郊の町)にあったコルドンブルーに入学しました。コルドンブルーといえばフランス料理ですけど、パリではなくてロサンゼルスにしたのは、ロサンゼルスならではのミックスのカルチャーが魅力だったからです。1年後には何をしようと確固としたプランがあったわけでもありません。当時はまだ20代だったし、今やりたいことをやろう、という自分の気持ちに従っただけです」

アメリカに残ることになったきっかけはすぐにやってきた。映画やテレビドラマの制作の仕事に携わっている現在の夫、ジェイソン・モアさんに出会い、結婚することになったのだ。さらに、コルドンブルーからも仕事の声がかかった。

「ワインのプログラムの専属講師としてリクルートされたのです。ワインのプログラムをゼロから考えて、そこで2年半教えました。でも、同じプログラムを繰り返し、教えていくことに限界を感じるようになり、もっと新しいことをしたいと、映画会社に就職しました」


日本の食文化代表するヘルシーな調理器具

そんな時、日頃から愛用していた土鍋を使い、料理教室を自宅で開くようになった。三重県の伊賀焼の土鍋に出会ってからは、その土鍋をアメリカに紹介したいという思いで、サイドビジネスとしてオンラインショップを開設した。土鍋を扱えば扱うほど、「パッションが膨らんだ」奈緒子さんは10年前に土鍋1本で仕事をしていくことを決めた。さらにレシピ本も出版して、ファンの輪を広げていった。

こうして「一人でオンラインショップを運営しながら、同時に自宅でお料理教室も続けた」末、路面店のTOIROをオープンさせたのが2017年10月。店には伊賀焼の土鍋だけでなく、鍋料理に合う、奈緒子さん自身が厳選した日本産の調味料やお米も揃う。

調理器具や調味料も豊富に並ぶ店内

改めて土鍋の魅力を聞くと、「日本の食文化を代表する調理器具であり、ヘルシーな食事を提供することができる点。しかも、蒸し料理、燻製など様々な調理に活躍するだけでなく、土鍋で炊いたご飯を食べれば、ご飯ってこんなに美味しいものなのかと感激するはずです。また、アメリカ人は特に鍋を囲む文化に興味を持つようですね」と答えた。奈緒子さん自身は土鍋に触った時の土の感じが魅力だと語る。「アース(地球)から来ているものだって実感できますよね。人間もそう。親近感が何よりの魅力です」。


店舗を拠点に土鍋コミュニティ広げる

2017年の12月は1000件ものオーダーを受けたそうだ。一人で何個も大人買いする人もいる。価格は100ドル以下の手頃なものから850ドルの高級品まで幅広い。

購入者もまたアメリカ全土、さらに海外にまで広がる。「東海岸や、寒いからなのかなぜかミネソタ州からのオーダーが多いんです。どうやってうちの店を見つけるかというと、『ベジタリアンレシピ』で検索して、私のレシピ本からたどり着いたりもするようです」。

料理教室も続けている。1回10人と人数が限られていることもあり、募集すると1時間で売り切れてしまうそうだ。「土鍋料理に挑戦していただく方には、いいところを自由に取り入れて貰えばいいと思います。私はあくまで橋渡しをするだけです」。

人気のレシピは、サーモンのひじきライスをはじめ、数多い。「鶏鍋だったり、坦々鍋だったり、タジン型の土鍋を使ったカレー焼きそばも美味しいです。いろいろです」。レシピもいろいろなら、料理教室に集まってくる生徒も多様性に富んでいる。「日系人の方がたまに参加されることはありますが、いろんなバックグランドのアメリカ人の老若男女が習いにいらっしゃいます」。

最後に、在米17年、アメリカ社会に向けて日本伝統のライフスタイルを伝える奈緒子さんにアイデンティティについて聞いた。「(アメリカの)シチズンシップは取らないですね。自分自身は小さな存在だけど、小さいながらも日本を代表しているという意識があるからです。これからも日本のいいものを伝えていきたい、という思いでいます」。 今後は店舗を会場に、日本からの講師を招き、土鍋に関係するワークショップやデモンストレーションを開催していきたいと抱負を語る。ワイン講師の時代は「もっと新しいことを!」と次のキャリアに進んだ奈緒子さんだが、土鍋を通して食文化を伝える仕事に終わりはないようだ。

URL: Toiro Kitchen & Supply

 

© 2018 Keiko Fukuda

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