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ホノルルの向こう側 ~ハワイの日系社会に迎えられて~

第8回(前編) 日系人に教わった、学校で教わらなかった基礎英語

第2回の「オシャレをしてもお洒落ではない?」で言葉の変化について触れた。継承されている日本語が本来の意味を失って変化していることを取り上げて、一世の生活を想像しながら考えた。海を渡ってきた彼らが日々懸命に働き、祖国に送金した残りの中から少しでも蓄えに回していたであろうことを。そこに「オシャレ」の意味の変容の理由がある、という仮説を立ててみた。

そうした気づきは、今のハワイの日系社会で日系人の友人たちに親しく付き合ってもらう中で得られたものである。家族同様のMさんとLさん夫妻、とくに奥さんのLさんは小学校の教師だった経験もあり、私が英語の表現に強く興味を持っていることをすぐに見抜いていたのだった。

今回はフィールドワーカーとしての自己開示も兼ねて、私自身の経験を紹介してみようと思う。

観察し始めて17年目のK小学校

1996年に職を得て、私はハワイの小学校に毎年通うようになった。アメリカ本土で仕事があれば、どんなに短期間でも帰りにハワイに寄るようにしていた。そうすることを5年ほど繰り返し、2001年には1年近く住み込んで、Mさんの小学校を集中的に観察することになる。

今と較べるとその頃の英会話力は惨憺たるもので、よくあれほどたくさんの観察記録を残すことができたと不思議に思うほどである。中学校時代から英語は一番の得意教科で、英語にまつわるあらゆることを身につけていくのが楽しくて仕方なかった。「暗唱文」と呼ばれるモデル・センテンスを500だったか700だったか暗記させられて、日英・英日両方の翻訳が自由自在になるよう鍛え上げられた。大学院に進学してからは、英語は勉強と仕事の道具になり、アカデミックな読み書き会話はそこそこできているつもりでいた。

だが長く住んでみると、日常生活のカジュアルなトークがからっきしダメだったのである。発言する人たちの顔を追って、いつもキョロキョロしてしまうことになった。「日常会話程度はできますけど・・・」と言う人がいるが、仕事の英語よりも日常会話のほうがよほど難しい。

2001年にMさんLさん夫妻に出会って、ほどなくLさんは丁寧に私の英語表現を直してくれるようになった。Lさんは8年生まで日本語学校に通っており、わりと頻繁に来日していることもあって、かなり日本語を理解し日本文化にも精通している。そのため何をどう間違えているのか、わかった上で直してくれるので大変納得しやすい。私とLさんとの会話は99%英語だが、単語がどうしても出てこない時には日本語を口に出してみる。たとえば「伝書鳩」と言いたいのに “carrier pigeon” ではなく “dove” しか思い浮かばない時に、「ハト」で通じることなどはありがたい。

キアヴェの木で焼くチキンとは・・・

「フリフリ・チキン」日本語も英語もハワイ語も混ざる説明

その頃よく指摘されたのは私の早口である。私は日本語と同じスピードで話そうとしていた。そしてよく吃っていた。いわゆる「ボトルネック」(言いたいことに見合う英文がすぐに出てこないこと)になっているので、それを直せば良くなると言われたのである。

でも現地人との会話に混ざろうとすると乗り遅れ、乗れたと思っても私が口を開くと全体のスピードが落ちる。そうしたことが繰り返された。そして自己嫌悪に陥ることもよくあった。

そんな時、いつも不思議にタイミングよくMさんLさんの自宅でのガレージパーティが開かれた。車が2台並んで入るだけの小さな可愛いガレージで開かれるこのパーティは、少ないときで親戚ふた家族が集まって10名前後、MさんとLさんの誕生会や感謝祭などだと50名くらいになる。

親戚の集まる小さなパーティに呼んでもらって話の輪に加わった時のことである。全員が日系人で三世と四世だった。いつものようにMさんの料理に舌鼓を打ち、夕方の涼風を感じながらフルーツやデザートでお茶を飲みながら楽しい会話が続く。日本のこともたくさん話題に上る。頑張って話に加わりながらも、丁寧に彼らの会話を聴いてみた。すると新鮮な気づきがあったのである。現地人の会話のテンポは早くても、話すスピードはそうでもないのである。日本語が頭に浮かぶスピードと同じ速度で話す必要はないのだ。英語はむしろゆっくり喋るのがいい。これに気づいてからは、私は吃ることが少なくなり、少しだけ冷静に会話に臨めるようになった。私が口を挟んでも、全体のスピードは落ちなくなった。

後編 >>

 

© 2017 Seiji Kawasaki

education English hawaii Japan

About this series

小学生の頃からハワイに憧れていたら、ハワイをフィールドに仕事をすることになった。現地の日系人との深い付き合いを通して見えてきたハワイの日系社会の一断面や、ハワイの多文化的な状況について考えたこと、ハワイの日系社会をもとにあらためて考えた日本の文化などについて書いてみたい。