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The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

日本の外国人女性の合計特殊出生率は思ったより低い

少子化対策の外国人移民:日本での効果は限定的?

日本の合計特殊出生率は低い。結婚しない男女も増えているが、欧州や南米のように婚外子(非嫡出子)または一人親の子も少ない。

日本を含む多くの先進国では今後少子高齢化問題がより深刻になると言われているが、合計特殊出生率が高いと思われがちなラテンアメリカ諸国でもその傾向は避けられそうもない。アメリカ合衆国では国政選挙になると、「移民の女性の方が多くの子どもを産む。移民の若者はどのような仕事もするし人手不足業界に労働力を提供しその上起業率も高い。収入を得るとその多くを国内で消費し残りを本国に送金する」といった移民のメリットを強調する候補者が出てくる1。また、移民が増えることで活気ある就業人口が増え、税収や社会保障の掛け金が増え、財政的にもプラスになると指摘するものもいる2。しかし、実際これらの主張のどこまでが事実で、移民が全ての移住国において上記のような恩恵をもたらしているのかは明らかではない。少なくとも日本在住の外国人女性の出生率をみると、そのような効果はない、という研究報告がある。

アメリカでは、ヒスパニックとアジア系の移民が増えており、前者が13%で後者が4%で総人口の約2割(2010年)を占めている。2050年にはそれぞれが29%と6%になると推計されている。特にヒスパニック系の増加率が著しく3、これは中南米系の合計特殊出生率がかなり高いことを意味している。しかし、経済効果等を評価してみると、地域や業種によっては国内の賃金水準を引き下げており、同じ教育水準の非ヒスパニック白人の求職者にとってはあまり歓迎できない側面もあるようだ。また、税収や社会保障に関していえば、行政による医療保障負担等を引き上げているという指摘もある。

中南米からの移民が多いもう一つの国は、実は欧州のスペインであるが、この国の合計特殊出生率は日本とほぼ同じ1.4で、EU内ではもっとも低い水準である。高齢化も非常に深刻で、65歳以上の人口が22%に上昇している(日本は25%)。総人口4,600万人のうち470万人が外国人で全体の10.5%を占めているが4、ここ数年前の経済危機の影響でかなりの南米系移民が本国に帰国して以来、人口は毎年数十万人ずつ減少している。スペインへの移民の少子化への貢献は限定的であることがわかる。また、学歴と経験のある若者が、職を求めて逆に中南米に移住するケースも増えている5。スペインは仕事と育児が両立しにくい社会で、出生率が上がらない構造的な問題を抱えているからだとOECDは指摘している。

他方、同じ欧州でもフランスの合計特殊出生率はほぼ2.0まで回復しており、高出生率の成功事例として紹介されている。この数値には移民女性の高い出生率が反映されており、本国から連れてきた子弟の数を入れると移民女性による出生率は2.6になり、フランスの実際の合計特殊出生率は2.16となる6。いずれにしても、欧州では移民女性の合計特出生率は2.0ポイントを超えているが、自国女性の多くは1.5以下である7

また、子沢山というイメージが強い南米でさえ今や少子化傾向にある。大国ブラジルとチリ、コロンビアが1.8で、アルゼンチンとパラグアイが高めの2.3と2.6、ウルグアイは2.0で、ボリビアが3.0である。ボリビアやパラグアイは、乳児死亡率が高く平均寿命がまだそう高くないので、単純に比較することはできない。また、これらの国も都市部と農村、教育や所得水準によって相当異なる結果になる。アジアに関しても、13億人の中国と活気溢れているベトナムでさえ1.7である。

ボリビアの主都ラパス。この国の出産率は24.24%(1000人当たり31人)で、合計特殊出生率は3.02(2013年)であるが、徐々に両数字とも減少傾向にある。ラパス、チュキサカ、コチャバンバという山岳地帯での合計特殊出生率は4.0だが、平地で亜熱帯地方のサンタクルスは3.0である。平均寿命(68歳)は、南米ではかなり低い水準である。

日本の場合、現安倍政権が、今の合計特殊出生率1.42を子育て支援や女性のスキルアップサポートなどによって1.8までに上げたいという政策方針だが、どの専門家も楽観視していない。日本の戦後の統計をみると、1950年には3.65で今のフィリピン(3.0)より高かったが、1970年には2.13になり、それ以降は低下傾向が続き今に至る(2005年が最も低く1.26である)。毎回少子化対策が議論されると、フランス等の事例が紹介され、移民労働の受け入れが議論になる。

日本の外国人女性の中でペルー人が最も特殊出生率が高いが、定住化又は永住化が進むにつれその比率も下がる傾向にある。

人口問題の権威である国立社会保障・人口問題研究所の山内昌和先生や是川夕先生の論文を読む限り8、日本における外国人女性の出生率はそう高くない。山内論文によると、80年代半ばから90年代まではフィリピンやタイ人女性の出生率はかなり高いが、定住化が進むに連れて特に都市部では次第に減少し、今では日本人女性の平均以下になっている、と指摘している。外国人夫婦(夫もしくは妻が外国人)から生まれる子の数は年間32,000人(2013年)であるが、母が外国人という出生数はその半分で、年間101万人という全国数からみれば1.5%に過ぎない。筆者がもっとも接している在日日系ペルー人コミュニティでも、当然世帯によって異なるとはいえ、平均子の数が二人ぐらいであり、それもすべてが日本で生まれたわけではない。

厚生労働省の人口動態調査をみると9、90年代の半ばから2008年の年間出生数は、ペルー国籍が600人から800人で、ブラジル国籍が2,400から3,000人で、2008年のリーマンショック後は多くが本国に帰国したためか、2014年の統計ではそれぞれが512人と1,643人である。母親が外国人である総出生数は14,993人である。非嫡出子の割合を国籍別に見ると、日本人が2.2%に対し、フィリピン国籍が23.6%、ペルー国籍は32.5%、ブラジル国籍は29.2%となっており、日本国内では最も高い水準にある。

山内は、こうした女性外国人の場合夫が日本人だとフィリピン人とタイ人に関しては子沢山という傾向があるが、ブラジル人やペルー人は異なる行動をとっているという。2005年の国勢調査のデータを元にした分析では、ペルー人女性の合計特殊出生率は1.99で外国人のなかでは最も高く、フィリピン人とブラジル人のが1.57である。地域別に見ると、神奈川県の外国人女性のが1.45で、ブラジル人集住地区のある愛知県や静岡県では1.29と1.20であり、日本人女性の出生率より低いのが注目に値する。なぜこのような傾向が現れているのかは各コミュニティーごとのもっと詳細な調査が必要になるが、夜勤シフトの多さ、育児や進路に対する負担、そしてせっかく得た生活水準の維持や本国への送金等によって妊娠を控えるのかも知れない。

是川夕氏は、日本の外国人女性の出生率は国籍によってかなり異なり、国際結婚夫婦の出生率は更に低いと指摘しながらも、フィリピンとベトナム人女性を除けばどの国籍でも出生率が日本人より低い、と発表してる。10代から20代前半のフィリピンとブラジル人女性の出生率は日本人より高いが、30代以降は低い水準に留まっており、国籍を問わずほとんどの外国人女性が1.2以下である(2010年)。また、居住期間5年未満と5年以上を比較した場合、突出した差はないが、定住化が進むにつれ出生率が低下する傾向にある。ただ、在日コリアンとベトナム人女性の場合、定住化プロセスが一段落した後に出生率が少し上がる傾向にあるが、それでも日本人女性の水準より低いというのが特徴である。

日本では若い外国人移民を受け入れても少子化は食い止められないと、各統計と分析が物語っている。日本もスペインと同じように出生率が上がらない構造的な問題を抱えており、これまでの政府による出生率促進政策と女性の社会進出策がうまくかみ合っていないのかも知れない。合計特殊出生率の高い国からの移民であっても、その国の女性が日本でも同じように子沢山になるとは限らないのである。日本で生活しているうちに諸制度の仕組みを理解するようになるが、出身国よりすべてが整備されているにもかかわらず、日本人女性ですら子どもを産まない社会では、移民の彼女たちが出産を控えるのは当然の結果かも知れない。

移民という人的資源で人口減少を抑制するという安易な考えは、この日本では通用しない。国籍を問わず、誰もが子の育児や養育、仕事と家庭の両立等が合理的に可能だと判断されなければ、やはり少子化を食い止めることはできないのかも知れない。

注釈:

1. Philip Martin y Elizabeth Midgley, Inmigración en los Estados Unidos 2010, PRB Population Reference Bureau, Migration News Editor, 2010.

2. Peter Hamby y Kevin Liptak, La fertilidad de los inmigrantes, un argumento a favor de la reforma migratoria en EU, CNN México, 2013.06.14

3. U.S. Census Projections With Constant Net International Migration

4. “La población sigue cayendo al reducirse el número de extranjeros”, (El País, 2015.04.21)

5. アルベルト・松本、「欧州からラテンアメリカへの“移住”とは」(ディスカバー・ニッケイ、2013.7.19)

6. François Héran, “Cinq idées reçues sur l’immigration
 サイトには訳文もある、「フランス移民女性の高出産率の先入観 2006-01.28-fenestrae.pdf」

7. 「図録:ヨーロッパにおける自国女性と移民・外国籍女性の合計特殊出生率

 早瀬保子・大淵寛編著「世界主要国・ 地域の人口問題」腹書房、2010。

8. 国立社会保障・人口問題研究所スタッフ

 山内昌和、「近年の日本における外国人女性の出生数と出生率」、人口問題研究、2010.12, pp. 41-59.

 是川夕、「日本における外国人女性の出生力—国勢調査個票データによる分析—」、人口問題研究、2013.12, pp.86-102.

9. 平成26年度人口動態統計特殊報告 「日本における人口動態 -外国人を含む人口動態統計-」の概況 (厚生労働省)

 

© 2016 Alberto J. Matsumoto

birthrate immigrants nikkei in japan

About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.