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The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

在日日系子弟は何を勉強したらいいのか 

進学セミナー、2014.10月、成田ヒスパニックコミュニティー企画のイベント

これまで、在日日系子弟や留学生の進学状況や労働市場が求めている彼らのスキルや採用状況などについて述べてきた1。外国人又は外国をルーツとしている子弟やその親は、日本もしくは本国の労働市場が何を期待し、どのようなスキルを求めているのかといったことに感心を持っている。

進学セミナー等で「何を勉強すれば“金”になるのか」、「一番就職しやすい“学問”は何だ」、「どこの大学にいけばいいのか」、「奨学金や貸付金制度はどれぐらいあるのか」、「ペルーの大学で勉強する方が良いのか、それとも日本の大学に進学した方が良いのか」、と聞かれることが多い。

“Lo que buscan las empresas”
メキシコで企業が求めている職種、何を勉強したらいいのかのヒントになるグラフ(大卒の80%は就職できる、そして就業者の半分は起業するより会社員になりたいという調査結果である)、El estudio, 2015.11  

こうした現実的な質問に対して私は次のように答えている。1)ある程度いい高校に進学・卒業し、大学への推薦を得られるぐらい頑張ること、2)学費を節約するのであれば地元の公立大学(国立もしくは県立)に入れるぐらいの実力を身につけること、3)語学でも数学でもいいのだが、得意分野を最大限に活用し、かつ就職にも有利な学問を現実的に検討すること、4)就職を希望する場合、できるだけ日本語力を身につけ、就職先で必要な専門的資格等を取得できるようにすること、等々をアドバイスしている。どのような選択 と決断をするかは、親子共々にかなりの努力が必要とされるだけでなく、家計への負担も考慮する必要がある。目標達成のためには、いい成績を収め、ハンディーがあってもそれを克服しなくてはならない。

本国の大学進学を考慮する場合、家庭内で使う語学水準では到底入学はできない。南米でも、名門大学は、入学するのはもちろんのこと、卒業するまでの単位取得も難しく、論文提出は必須なので、日本の大学を卒業するよりも厳しい。場合によっては、6年から7年かけてようやく学位を取る人もいる。国立大学を選択すすれば、学費は無料または少ない額で済むが、生活費や教材に関する費用は相当なものになる。卒業できるのは全体の三分の一程度である。

最近、南米の新聞や雑誌の記事、専門家の論文等を読んでいると、どの国でも高等教育の重要性と必要性を説いている。しかし、多くの国では社会(労働市場)が求めていない学問の大学卒業生が供給過剰になっているミスマッチ問題や、多くの高卒や大卒の質があまりにも低いため雇っても効果的な研修が実施できない、という悩みも指摘されている。

中南米は、所得や社会的格差による教育格差が深刻で2、底辺や振興ミドルクラス層の子弟が通う公立学校のインフラ整備不足と教員の低レベル化は、大きな政治問題でなかなか適切な解決策が見いだせないでいる。大学教育は、民主主義の権利として位置づけられ、学位を得ることは社会進出と生活水準の上昇を保障するためであると思われている。しかし、数年前チリで発生した大学生抗議デモでみられたように、就職できない若者のフラストレーションが大きな政治運動になり、最後にはチリ国立大学をはじめ多数の大学が学生団体によって占拠される事件にまで発展した(2011年6月)。これは、学費高騰の問題だけではなく、あまりにも役に立たない学部が乱立しているのが原因とされた。

私はアルゼンチンのブエノスアイレス州で生まれ大学まで進学したが、移民の二世として幼い頃より親から諸先輩のサクセスストーリーを聞かされて育った。マイノリティーである日系人として尊敬され、差別やいじめに勝つためには、常にトップか上位に入ることが重要だと言われてきた。とは言え、実際高校の同級生や日系社会の仲間たちをみるとほんのわずかしか大学には進学しておらず、大学進学したのは多くても全体の3割である。入学しても、多くが中退し、卒業できたのはその半分ぐらいかも知れない。また当時の日系人の学問や専攻をみると、いずれ自分で開業ができる自由業(弁護士、会計士、医師、薬剤師、建築士等)を選択している人が多い。最近は、行政や民間企業など幅広い分野の専門分野で活躍する日系人も増えているが、それでも日本のように高卒の半分以上が大学に進学し、その卒業生の9割以上が就職できるわけではない。酷な言い方だが、中途半端な語学力しか持たず、明確な目標と激しい競争に耐えられる学力がない場合は、本国での教育を受けることはあまり勧めることはできない。

またグローバルな仕事につきたいのであれば、語学力や文化的多様性の運営能力を売り込む必要がある。もちろんのことだが、日本の大学教育でも十分に対応できる。また、大卒でなくとも、語学スキルと経験でそれをカバーしながら、努力と継続で補うこともできる。例えば、メキシコ中部では、日系自動車メーカーの関連企業がたくさん進出しているが、猫の手も借りたいほど日本語、英語、スペイン語ができる人材を求めている。そのようなところで数年間経験することも一つの選択肢である。

若者は、学生または社会人であっても、よく「好きなことがみつからない」と不満を言う。しかし、長い就労生活の中でいつも好きな仕事ができるわけではないし、いい上司や仲間に恵まれるわけでもない。また、いかなる国でも若いときは何を勉強していいか、その学問が自分にマッチするのか、はっきり分からないものである。これまで、多くの在日ペルー人子弟と接してきたが、ある程度いい大学に進学し、いい仕事に就けた者はやはり家庭の理解とともに本人自身が計り知れない努力をしている。夢や希望というより、実現可能な選択をしているケースが多い。そして、親や高校の先生に非常に感謝している姿勢がみられる。

人事の専門家は、一流大学で勉強しても、仕事のできない人はどこにいっても評価されない、と厳しい指摘をしている。それでは、「仕事ができる」というのは何を意味するのか。それは、雇用されやすいかつスキルアップしやすい職種のなかで、雇用主から求められる仕事をきちんとこなせるかである。実際、中南米では大卒が増えているが、企業が求めている職種、主に技術系では深刻な人手不足状態が続いている。多くの国では、インフラ整備や産業育成に支障が出るほど必要としている「仕事ができる」人材が確保できていないのである。

ペルー教育省やIDB米州開発銀行のレポート等をみると3、多くの国では十分かつ適切な水準の教育を受けていない児童・若者が多く、一部の私立学高校に通学している者のみがレベルの高い国立大学に進学し、比較的賃金のいい職に就いているのが現実である。

南米でも日本でも、高等教育の改革が求められており、市場が要求している人材育成は急務である。ただ、日本の場合は、何を勉強したかよりはどの大学で勉強したことがまだ重視される傾向があるため、若者も、学部に関係なく柔軟に雇ってくれるところに就職するケースが多い。欲がないというより現実的に一人一人が自分自身の諸条件や限界を容認しているのかも知れない。また、労働市場もいまのところは多くの卒業生を受け入れる余力を持っている。ただ、今後の国際競争の激化、グローバル化による労働生産性の向上は、各教育機関にもっと実践的なカリキュラムを求めるに違いない。

つい数ヶ月前(2015年6月)、文科省は大学の職業教育や技能訓練を行う教育機関にする方針を発表した。既存の短大や大学を、職業教育学校にすることが想定され、2019年から実施される予定だ。

在日日系子弟やその親も、今の日本の変革や世界経済等の変動を把握しながら、進学や進路を真剣に検討し、選択しなくてはならない。教育への投資は時間をかけて回収するというが、多くの若者にとって社会人になった段階から借金の返済も開始され(給与からの天引き)、やはり実践的でスキルアップしやすい職種を目指すことも、重要である。

注釈:

1. 「大卒日本人の就職と外国人二世の就職」、Discover Nikkei, 2014.12.08

  「日本で就職する外国人留学生の増加と日系企業の課題」、Discover Nikkei, 2015.07.28

2. “Inés Temple: Debes educarte para ser empleable”, PERU 21, 2015.07.21

3. “BID: Jóvenes salen de universidades e institutos sin habilidades para conseguir un buen empleo”, Gestión, 2015.05.26

  Laura VELA, “10 Habilidades para el trabajo que no te enseñaron en la escuela”, DineroenImagen, 2015.11.17

 

© 2016 Alberto J. Matsumoto

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About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.