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イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト II

MITATE CLUB

ネットオークションの最後15分で値が吊り上がって、目当ての小引き出しは、78,000円になった。5000円までと決めていたのに、競り合いになってヒートアップしてしまった。

送られてきた品物は、思ったよりしっかりしていた。上段の引き出しは二つに仕切られ、中段、下段は仕切りがない。上段を開けてペンやハサミを入れた後、私は下段を開けた。下段は、少し引き出しが斜めになっていて、何か引っかかっているみたいだったので、気になったのだ。

案の定、引き出しが出てこない。ぐっと手前に引っ張ると、開くには開いたけれど、何かが変だ。中段を開けてみる。中段と下段では引き出しの高さが違っていた。下段の方がずいぶんと低い。私は、下段を覗きこんだ。

ん?

下段は、上げ底になっているようなので、ひっくり返す。

コン、コン

うん。やっぱり。

底と下段の間には空間があるようで、空洞を叩いた時の音がする。振ってみると紙があたるシャカシャカという音がかすかに聞こえる。手を突っ込んだが底板に隙間はない。ハサミをてこにして底板に力をかけた。

中に入っていたのは、五通の手紙だった。英語だった。昔の授業の記憶と辞書を頼りに読んでみるか。ひと様の手紙を読む罪悪感は、好奇心に負けてしまった。

「それは違うわ。それは見立てというより、色合わせでしょ?」

「ん~。ピンクとグレイを合わせると素敵なのよ!」

「そうだけど、それは色合わせ。コーディネートよね。私のはこれよ。コップ。茶色いところに白がのってて、雪が積もってるみたいでしょ?」

「ずるいわ、カズコ!日本のものを持ってきたらずるい!」

ピンク色のドレスにグレイのバッグとブローチを広げたスーザンと白い釉薬がぽってりかかった湯のみを手にした和子には、一秒も喋らない時間がないようだ。

「わかった。確かにそうね。日本のものを持ってくるのはずるいわ。でもスーザンはまだ見立てがわかってない。ちょっと一から勉強しないといけないわ」

「う~ん。わかった」

「ところで、スーザン、そのドレス、ルイーズ姉さんのじゃないの?」

「そうよ。ちょっと借りてきたの」

「大変!今日はダンスパーティがあるってジャックが言ってた!きっとルイーズ姉さん、それ着ていくつもりよ。怒られるよ!」

「怒られる!」

二人の会話とバタバタと走って出ていく音を聞いていたテツゾウ・ワタナベは、にやにやしながら、本棚に目をやった。

  • 盆栽
  • 着物
  • 枯山水

様々な日本文化についての本を取り出して、机に置いた。和子とスーザンに「見立て」の話しをしたのは、和子の父であるテツゾウだった。

「雲は何に見える?」

「綿菓子!」

「ソフトクリーム!」

和子とスーザンが答える。

「じゃ、あっちの細い筋みたいな雲は?」

「道に見える」

「うーん。なんだろ。雲にしか見えない」

「うん。それでもいいんだ。でも、時々何か別のものに見えるだろ?それを日本では、『見立て』って言うんだ。例えば、日本では月にウサギが住んでいてモチをついているって言われてる」

「モチってなに?」

「あ、ごめん。スーザン。モチはライスで出来たものでね。なんとも説明が難しいな。正月に作るから食べにおいでね」

「はい」

「でも月に何かが住んでいるって思うのは、日本人だけじゃないんだ。これは中国から来た話しだろうし。薪を担いだ男がいるっていう国もあるらしい。月の表面にある模様を見て、あれはきっとって思ったんだね。こうも見えるな、ああも見えるなと思うことは、楽しいことじゃないかとお父さんは思うな」

「楽しいね!」、「いいね!」と口々に言い合って、二人は「見立てクラブ」を作ることを決めたようだった。

「いいね。お父さんも入れて」

「だめよ、大人は沢山知ってるんだから、だめ。ね、スーザン」

「う、うん・・・お父さんには審査員になってもらったら?」

「うん・・・う~、うん!いいわ。お父さんは審査員になってください」

「はい、はい。わかりましたよ」


<<一通目>>

カズコ、元気にしていますか?私は元気です。これが届くのかどうかわかりません。ジョアンは届くと言っていました。だから、書いています。

何から書いたらいいのかわからないくらい、すべてが変わりました。カズコのいない生活がどんなにつまらないか、どう書いたらいいかわかりません。みんなといても、いつもつまらない気持ちです。だから、頭の中でいつも考えているの。またカズコが戻ってきて見立てクラブをする時のために、一人でクラブを続けようって。

こないだ拾った石の模様が水の流れのように見えました。模様のところだけ白っぽくなっていて、そこだけ眺めていると、川のように見えるの。これは、カズコもお父さんも誉めてくれると思うわ。石の絵を描いておくね。

              スーザン

<<二通目>>

カズコ、ルイーズ姉さんの結婚式が近いです。婚約者のリチャードが戦場へ行くの。だから、その前に結婚式を挙げてしまうんだって。私は反対です。ルイーズだって、望んでいないのに。一生に一度のウェディングドレスを泣きながら着るなんて、なんて残酷なんでしょう。でも、ルイーズはお父さんに逆らえない。私も。

楽しい話をしましょう。見立てのお話を初めて聞いた時、カズコのお父さんが雲の話をしていたね。それからよく雲を見ています。今まで見えたものはね。

  • 走ってる馬
  • おじいちゃんのヒゲ 
  • ポップコーン
  • レストランのクスモトさんの帽子
  • フライパンの上で割る時の卵。

腕みたいに見えた細長いのもあったよ。カズコはどんな雲を見た?そこで見る雲は、何に見えますか?

              スーザン

<<三通目>>

カズコ、嫌な話ばかり聞こえて来ます。お兄さんはお元気ですか?どこか遠くへ行っていなければいいなと思います。お兄さんのことをジャックって呼んでいて、カズコにだってアリスって名前があったのに、なんでこんなことになるの?

でも、私は混乱してもいます。恐くて、憎い。でも、今もカズコやジャックのことが好きです。カズコはいつも、「日本の山は丸くて、海は穏やかで、おいしい魚が獲れる」って言っていたけれど、カズコは一度も日本へ行ったことがないじゃない。それは祖国と言えるの?私にはわかりません。あなたたちが恐い。でも好きで、そしてあなたたちは、アメリカ人じゃないのかと思う。誰にも何も言えなくて、手紙に書くしかありません。

リチャードが行方不明だと連絡が来ました。姉さんは泣いています。喜んでした結婚じゃないのに、泣いているなんてバカみたいです。

でも、私のせいじゃないかと思うの。結婚式の日、私、ウェディングドレスのスカートの裏にジャックからもらったボタンを縫い付けたの。ジャックがルイーズにあげたものを大切にしまっていたのを知っていたから。ひどいことをしました。ルイーズは本当はジャックと結婚すべきなのよって言いたかった。だけど、そのせいでリチャードはいなくなったんじゃないかと思うと怖いです。

でも、リチャードがいなくなった分、本当にルイーズとジャックが結婚する日が来るんじゃないかなんて思うのも恐い。だけど、リチャードがいなくなったのは、日本人のせい。

今日は何も見立てが思い浮かびません。

              スーザン

<<四通目>>

カズコ、今日は見立ての話だけをするつもり。カズコのお父さんが私の部屋の出窓に本を置いていってくれた話をしていなかったね。気付いたのは、カズコたちが出て行ってしまった翌日でした。掃除をするように言われて庭に出たの。そしたら、私の部屋の出窓の下に袋が引っ掛けてありました。中を開けたら本が三冊入っていて、日本語だったので、カズコからかと思ったけれど、幾何学模様を描いた砂に岩がいくつか置いてある写真が載った本の裏表紙に、カズコじゃない字で「いつかまた」とありました。署名はなかったけれど、お父さんだってわかったわ。

砂の庭はよくわからないけれど、着物は本当にステキ!とってもきれいで、いろんな色と色合わせがあります。これもきっと、何か「見立て」なのね。いつかお父さんに教えてもらいたいです。

それをヒントに考えたの。例えば、白と青の組み合わせにすれば、海と波になるでしょう。赤と黄色なら中華料理屋さん。こうしてみれば、いろいろ思いつきそうな気がする!

中華料理屋さんで思い出したんだけど、前にみんなで行ったお店でもらったクッキーに入ってた紙が出てきたの。

   遠くはなれて会いたいときは
   月が鏡になればいい

とてもいい言葉だと思った。

              スーザン 

<<五通目>>

カズコはきっと私を許してくれないでしょう。手紙を書きたかったけれど、お父さんが許してくれなかった。お父さんに黙って出せば良かったの。カズコに返事はいらないって、お父さんが破るに決まってるからと伝えれば済んだことだもの。でも、私はお父さんに支配されていた。お父さんが日本人への恐怖に支配されていたように。  

今は、どうしてそんなことができなかったのかわからない。簡単なことなのに。これをカズコに渡す日が来るのかどうか?あなたに謝る日が来るのかどうか?

昨日、リトルトーキョーに行きました。もう随分経つのに、元の所に帰って来ていない人も多いの。カズコも帰って来ないの?いつか帰って来てくれますように。それを祈るだけです。

               スーザン


会えなかったんだろうと思った。だから、今この手紙は私の手元にやってきた。カズコとスーザンを会わせてあげたい。例えもう二人ともいないとしても。

 

* このストーリーは、リトル東京歴史協会による第2回ショートストーリー・コンテストでの日本語部門最優秀賞作品です。

 

© 2015 Miyuki Sato

community fiction little tokyo World War II

About this series

リトル東京歴史協会は、今回が第2回目となる年に1度のショートストーリー・コンテスト(フィクション)を開催し、2015年4月22日、リトル東京のレセプション会場で最優秀賞と最終選考作品を発表しました。昨年度は英語作品のみを対象としましたが、今年は新たに日本語部門と青少年部門を設け、各部門の受賞者に賞金を授与しました。唯一の応募条件は、(英語は2,500単語、日本語は5,000字以内という条件の他)クリエイティブな手法で物語の中にリトル東京を登場させることでした。

  • 日本語部門 最優秀賞:  「Mitate Club」 佐藤 美友紀(北海道室蘭市)
  • 英語部門 最優秀賞: “Fish Market in Little Tokyo” ナサニエル・J・キャンプベル(アイオワ州フェアフィールド)[英語のみ]
  • 青少年部門 最優秀賞: “Kazuo Alone” リンダ・トッホ(カリフォルニア州コロナ)[英語のみ]

Some of the Finalists to be featured are:

紹介された最終選考作品:

日本語部門

英語部門(英語のみ)

青少年部門(英語のみ)

  • Midori's Magic” サレナ・クーン(カリフォルニア州ロス・アラミトス) 

 

* 第1回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテストもご覧ください(英語のみ) >>