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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

スペインとフランスを訪問、外国人社会とは

今年の2月末、学会に参加するためスペインのサラゴサ大学を訪れた。この大学には法学や文学等を中心に「日本研究グループ」があり、熱心に日本のことを研究している。多数の学生が日本語をマスターしており、日本の大学と交換留学プログラムもある。学会のテーマは「日本と個人、他分野にわたる比較分析」で、スペイン各地の大学から研究者や院生が参加し、日本からは私を含めて5人が発表の機会を得た1。開会式には、大学の上層部や駐スペインの越川日本大使及び国際交流基金マドリード事務所の上野所長(当時)も出席した。同基金はこの学会の開催を金銭的にも助成したので、そのおかげで我々も日本から駆けつけることができたのである。

右が弁護士で法律の翻訳家であるバルベラン先生、学会で発表

この研究グループの主要メンバーの一人、弁護士及び法律コンサルタントで日本語教師でもあるフランシスコ・バルベラン(Francisco Barberán)氏は、独学で日本語を勉強し、今は法律翻訳者として世界的に最も権威のある人物である。「西和—和西法律用語辞典」、「現代スペイン法入門」、そして「現代日本法入門(スペイン語版)」等の刊行に尽力したことで、日本とスペインまたは中南米の法律に関わっている者で彼を知らない人はいない2。私も、微力ながらスペイン法と日本法入門の一章を担う機会を得たことで多くを学ぶことができた。

ただ法律の世界では、専門用語の辞書があっても、そのまま直訳することはできないケースも多々あり、法の解釈や適用範囲、条文の意図や司法の運用等によって、意訳や細かい注釈が求められる。説明にも、ときには限界を感じることもあるし、その国の法制度や慣習、社会構造や政治的背景も考慮しながら注意深く翻訳または通訳する必要がある。バルベラン氏は、日本の法哲学や歴史にも精通しており、昨年来日した際の上智大学での講義を聞いたとき、改めて自分の未熟さを実感した次第である。

サラゴサ大学で開催された日本と個人の学会, 2015.02.26  

今回の学会で私は、「日本の労働市場:個としての労働者」という題名で発表した。日本の個別的労働関係が労働者個人をあまりにも保護できていないことや、今話題になっている正規社員と非正規社員の違いと格差、非正規社員の状況と低い労組加入率、正規社員の長時間労働と精神的疾患の増加(過労による自殺等)、大卒の高い就職率と就職のミスマッチという切り口で、述べたのである。

今のスペインは、23%という日本では想像もできないほどの高い失業率で、若者の失業率に至っては、二人に一人が職を得られない50%という数値である。経済の構造改革によって少しずつ回復に向かいながら新規雇用創出も増えているが、多くの雇用は短期か非正規雇用であり、まだ不安材料を残している。また、財務省が試算した地下経済比率は約25%であって、多くの失業者は個人事業として 生計を維持している。この比率は、EU主要国であるドイツ、フランスおよびイギリスの倍であり、また、どのような仕事に就いてどれだけの所得を得ているかが把握できておらず、税や社会保険料の徴収もできない状態にある。

一方、今年の1月1日現在の登録外国人数が470万人で、これは前年比6.1%の減少である(2011年には、520万人までに膨れ上がり総人口の12%であった)。中南米出身者の減少率が最も高く、ペルー人が21.3%、エクアドル人が19.5%、コロンビア人が17%減だ。また、人数では最も大きいコミュニティーであるルーマニア人やモロッコ人もなかなか職に就けず、就いても非正規雇用である。と同時に、貧困状態にある外国人がかなり増えているという指摘もある(全国平均が27.3%だが、経済危機が最も深刻だった3年前の調査では外国人移民の貧困率は47%という推計である3)。

スペイン人との話で最近話題にのぼるのは、スペインからラテンアメリカ諸国に移住している大卒や、ある程度スキルのある若者のことである4。ここ数年だけでも数十万人がブラジルやアルゼンチン、コロンビア、チリ、ペルー等に一時的に出稼ぎ、または移住している現状だが、国連の機関であるIOM国際移住機構によると2012年には欧州から18万人がラテンアメリカ諸国に移住しており、その内の15万人がスペインからである。イタリアやポルトガルからはむしろ減少傾向にあるが、中南米の景気上昇や業界によっては技術者やマーケティング、財務や会計の人材が不足しているため、同じ言語で意思疎通できるスペイン人の需要が高いという。他方、職種にもよるが、ラテンアメリカの域内移住も活発で、ペルーやボリビア、エクアドル等がかなり高い人気を誇っている。

いずれにしても、今回のスペイン訪問でサラゴサもマドリードも経済回復の兆しが感じられ、少しずつでいいから雇用の改善が進むよう願わずにはいられなかった。

パリのアフリカ人街、2015.03

その後は私的な旅行だったが、フランスの南東部クレモンフェランドに住んでいるアルゼンチン出身で社会科学者でもある知人を訪ね、3日間落ち着いた田舎で過ごした後にパリに移動した。大学院の同級生や教え子が住んでいるので市内の各観光名所だけではなく、インド人やアフリカ人移民街にも連れて行ってもらった。風刺週刊紙シャルリー・エブド本社テロ襲撃事件から3カ月余り経っていたが、兵士の警備にはあまり緊張感はみられなかった。

フランスは総人口の一割に当たる650万人が外国人移民で、イスラム教徒も複数国籍で構成され数百万人に上る。人口比率ではスペインと同じぐらいであるが、両国とも年間10万人以上の外国人が帰化しているので、その分法律上の社会統合のペースが早い。ただ、ビザの取得や家族の呼び寄せ者数、非合法滞在者の取締や強制送還の頻度も、経済情勢や政権の外国人移民政策によって多少左右されている。移民が多い分その受け入れ負担(コスト)についても議論はあるが、その貢献度についてもかなり客観的な指標に基づいて評価されている。

移民には若者が多い分、人手不足職種への労働提供や、その労働による税や社会保険料の徴収額、特殊出生率への貢献等も統計によって公表している。しかし、最近みられるような世情不安定もしくは紛争地帯の中東や北アフリカ諸国からの難民や移民の増加は、どの社会でも警戒と懸念が高まっており、排斥や人種差別的な表現が目立っているところもある。

欧州では、フランスのすべての学校の壁に刻まれている「自由、平等、博愛」という理念を維持するのがかなり難しくなってきていると感じた旅でもあった。

パリ市内の学校の入り口「自由、平等、博愛」(2015.03)

注釈:

1. Grupo de Investigación JAPON, Universidad de Zaragoza 

2. バルベラン先生のコンサルタント会社: http://www.nichiza.com 
  出版物: http://www.derecho-hispanico.net/libros.html

3. “La mitad de los inmigrantes que viven en España, al borde de la pobreza”, El Mundo, 28.11.2011.

4. 「欧州からラテンアメリカへの“移住”とは」(ディスカバーニッケイ、2013.07)

 

© 2015 Alberto J. Matsumoto

Europe France spain

About this series

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。