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南米の格差と治安、そして日系人たち ~その2

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南米諸国で、格差のほかに懸念材料となっているのが治安である。これは、ほとんどの国で悪化しており、経済成長とは裏腹に社会の安全が脅かされている。

財政的基盤が弱い国は制度的に統治機関が貧弱であり、慢性的汚職体質が警察、検察当局をはじめ、ほぼすべての役所に広がっており、そのため司法も機能不全に陥っている。そして多くの国や地域では麻薬カルテルの違法活動が社会の隅々まで浸透しているため、暴力が蔓延している。

メキシコでは、2006年から2012年までの間麻薬闘争の被害で殺害された人が7万を超えている。つい最近国連開発計画(UNDP-PNUD)が作成した人間開発地域報告2013-2014では、詳細にラ米の治安問題が分析されている。その一部の概要は次の通りである。

1)2000年から2010年の間に記録されている殺人事件は、100万件である。調査対象18カ国中11カ国で、10万人中10件の事件が発生している(若者になるとその比率が10万人中70件と、さらに高い水準を示している)。窃盗・強盗もこの四半世紀で3倍に増加しており、2012年の統計だけでも10人に6人は窃盗被害者であり、10人に3人は不安を感じ、10人中5人は自分の居住地もしくは社会で治安が悪化していると感じている。

経済成長は消費を拡大してもそれが社会進出を反映しておらず、教育制度の不備(高い中退率)や家族体系の変化(一人親及び非嫡出子の増加)も影響して、そのうえ簡単に拳銃等が入手できることや麻薬の消費及びその密売が蔓延していることで、犯罪率も上昇していると専門家は指摘している。

また中南米の都市人口は全体の8割(総人口6億人中4.8億人が都市に居住しており、50万人都市が125市もある)を占めており、その郊外では大規模なスラム化が進み、数万から何十万人単位で最低限のインフラ整備のないまま生活を営んでいる。当然、近隣との摩擦は拡大し、犯罪組織による麻薬販売や武器密売も蔓延している。十分な教育を受けていない者が多く、子弟の教育機会も限られている。ほとんどがブラック労働で低賃金で働いている。

ブエノアイレスのレティーロ地区にあるスラム(奥にはビルと高級マンションが並ぶ)。

2)UNDPのアルゼンチン、ブラジル、チリ、メキシコ、そしてペルーの刑務所状況の調査によると、服役者の3人に1人は15歳未満で家出をした者であり(チリの場合は、2人に1人)、四分の一近くは父親または母親の顔を知らないという。

8割が義務教育も終えておらず、軽犯罪の現行犯で収容されている若者が多いのも特徴である。その結果ほとんどの服役者は35歳になる前に出所するが、再犯の確率が非常に高いとされている。

ほとんどの国では警察官や刑務官に対する信頼度は低い。刑務所の更生機能も健全な社会復帰率も低い。脱走事件も多く、ほとんどが刑務官の共犯によるもので施設そのものがマフィア化している(差し入れも麻薬密売に発展し、面会も売春宿と化しているところも多い。多くの国では刑事訴訟法上配偶者の面会の際、一定の条件の下別室で性交渉も認めているのでそれが無法地帯と化しているという)。

3)犯罪による国内総生産GDPへ影響を見ると、その損失は大きく、ホンジュラスやパラグアイでは10%も影響している(2010年推計)。チリやウルグアイでは3%前後である。また、国の予算カットで民間警備会社の成長が著しく(年間10%)、ラ米諸国には261万人の警察官に対して381万人の民家警備員が存在する。その結果、民間人の銃の携帯率は欧州の10倍もあり、警備会社を契約できる世帯や地区とそうでない人との格差は一目瞭然で、それぞれの治安状況も経済状況によって極端に異なる。

チリの「カラビネロス(治安警備隊)」は、南米でもっとも信頼が高く、そう簡単に賄賂に応じないというもっぱらの評判。

ラ米の日系社会は、こうした格差(以前はもっと偏見も差別もあったのだが)や不備の多い社会の中で発展し成熟してきた。

都市部のクリーニング店や雑貨店に限らず農業移住地でも、日系人世帯の多くは少なくとも1〜2回は強盗にあったことがあるだろう。しかし、それによる経済的損失と精神的負担を乗りこえて地元社会との共存をはかり、更なる社会貢献も継続している。多少の「社会的免疫」を育んだとはいえ、常にかなりの緊張感を持って事業や家庭を営んでいかなければならないのである。油断は禁物という言葉があるが、まさに南米ではそのことを肝に銘じて生きていくことが求められる。

今後日本からラ米への企業進出が拡大するだろう。特に最近では、中小企業の間で関心が高まっているようだが、さまざまな要素を鑑みて事業展開を検討し実施しなければならない。日系社会と日系人リーダーたちはその架け橋的な役割をある程度果たせるが、日本企業は、南米諸国のこのような実態を把握することからはじめなくてならず、複雑かつ危険も含んだ多様性を想定して、進出を試みなければらない。さまざまな矛盾にも心の豊かさはあり、生き甲斐を得ることもできる土地である。100年前から移住した日本人の諸先輩がそれを立証してきたのである。

参照:

国連開発計画のラ米治安状況の報告書 http://informes.americaeconomia.com/pnud2013/

 

© 2014 Alberto J. Matsumoto

awards design economies Latin America safety
About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.

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About the Author

Nisei Japanese-Argentine. In 1990, he came to Japan as a government-financed international student. He received a Master’s degree in Law from the Yokohama National University. In 1997, he established a translation company specialized in public relations and legal work. He was a court interpreter in district courts and family courts in Yokohama and Tokyo. He also works as a broadcast interpreter at NHK. He teaches the history of Japanese immigrants and the educational system in Japan to Nikkei trainees at JICA (Japan International Cooperation Agency). He also teaches Spanish at the University of Shizuoka and social economics and laws in Latin America at the Department of law at Dokkyo University. He gives lectures on multi-culturalism for foreign advisors. He has published books in Spanish on the themes of income tax and resident status. In Japanese, he has published “54 Chapters to Learn About Argentine” (Akashi Shoten), “Learn How to Speak Spanish in 30 Days” (Natsumesha) and others. http://www.ideamatsu.com

Updated June 2013

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