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The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

ダイバーシティーを積極的に活用〜欧州の多文化共生都市会議に参加して学んだこと〜

2012年の9月末、欧州評議会の招待でスペインのサンセバスチアン(北東部のバスク自治州)で開催されたインターカルチャラル・シティ・プログラムの会議に出席した1。日本からも自治体関係者と明治大学国際日本語学部の山脇啓造教授が参加した2

Intercultural City Programme会議の開催責任者、コンサルタントと山脇教授

移民の多い欧州での国際会議は私にとってはじめての経験だったが、スペインからは地元サンセバスチアン、バルセロナ、カディス等の自治体職員やコンサルタントが参加し、イギリス、オランダ、ドイツ、ロシア、デンマーク等、他国からも専門家が集まった。

欧州連合は現在加盟国が27カ国で、経済力も社会構造も移民構成も様々である。特に所得の高い主要国(ドイツ、フランス、イギリス等)には数百万人の外国人が存在するため、これまで「多文化共生政策」という寛容策で対応してきたが、現在はダイバーシティー(diversity、多様性の尊重と活用)という言葉を用いて新たな移民統合政策を模索しながら、実施している。外国人の多様性が、ホスト社会にどのような付加価値を与えてくれるのか、成熟した社会にどのような創造性やイノベーションで貢献できるのか、そして雇用と海外展開の機会を創ってくれるのかが、大きな挑戦のようである。

欧州連合(EU)の総人口は5億人以上で、域内総生産は日本の3倍あり、一人当たりの平均所得は35,000ドル(約400万円相当)ぐらいだ。しかし、主要十数カ国の生産高と所得を国別にみると、以前からEUに加盟していた国々と近年加盟した国々とでは、3倍以上の格差がある(例えば、ポーランドやハンガリーの所得は平均の3分の1しかないが、ドイツの平均所得はその4倍、北欧諸国は5倍になる)。

また、欧州連合の移民統計をみると3、外国人労働者の移動がかなり流動的なのがわかる。一年間で300万人が域内に移住している一方、180万人が出国している(2010年)。外国人労働者の移動は、米国のリーマンショックとEU経済危機後は増加傾向にある。

イギリス、ドイツ、スペイン等では、毎年40万人から50万人の新規移民外国人を受け入れているため、現在、域内全土には3200人の外国人がいるとされ、その内3分の1が域外の国籍を有している(トルコ、アルバニア、ウクライナ、モロッコ、アルジェリア、中国、そして中南米諸国(エクアドル、ブラジル、ドミニカ共和国等)という順である)。もっとも外国人が多い国はドイツで710万人、スペインが570万人、イギリスとイタリアが420万人ぐらいで、フランスが380万人である。この5カ国に全体の7割以上が居住していることになる。

バルセロナ市の外国人住民構成(パキスタン、イタリア、中国が上位3つの国籍が占めているが、トータルでは中南米が全体の40%である)

外国人移住者の構成は国によってかなり異なっている。というのも、70年代からドイツ等が導入した労働者確保のための移民協定及び家族呼び寄せ制度、フランスやイギリスが行っている旧植民地への優遇政策など、国によって政策が異なっているからだ。また、文化的・地理的要素(スペインやイタリアへの北アフリカ諸国からの移民)等も外国人の入国や滞在促進の要素となっている。実際、ドイツには最大のトルコ人コミュニティーがあり、フランスにはアルジェリア人、スペインにはモロッコ人と中南米出身者(南米の一部とは二重国籍協定があり、エクアドル等とは移民協定がある)が多い。ただ、欧州の場合、年間70万人以上(2009年統計)が帰化してその居住先の国籍を取得しているので、次第に移住した社会へ統合されていく傾向にある。しかし、欧州全域には少数民族を含めると6000以上の言語があり、主な宗教も17で宗派等を含めると1万近くもあるので、国籍取得で諸問題が解決するわけではなく、時にはその実態が見えなくなるという。

EUはもともと多様性と複雑な歴史のある地域で、そこへ外から様々な価値観や宗教観を持った外国人が大量にやってきたのである。そのため「多文化共生」を志向する、多様性を尊重する政策が重視されたのだが、その行き過ぎが結局移民の二世代目または三世代目になっても社会統合は達成されず、むしろ社会的・経済的に排除されるものが増えてしまい、この10年でパリ郊外やロンドンで大きな暴動事件が発生したことは記憶に新しい。

2年ほど前にドイツのメルケル首相は、「欧州の外国人多文化共生政策は失敗に終わった」と発言したが、やはり外国人が移民となるためにはその移住先の言葉や習慣を身につける必要はあるし、コミュニケーション力を高めない限り互いの違いや共通点を理解したり補完し合ったりすることは困難なのである。当たり前のことだが、理想が幻想化されてしまったのかも知れない。

今回のサンセバスチアン会議の出席者らは、ダイバーシティーというものは非常に複雑で、外国人移民を受け入れた社会はかなりの覚悟が必要であると話していた。各グループや専門家の発表でも、外国人の社会的インクルーション(social inclusion社会的包摂という意味だが、排除の反対を強調)の重要性が主張され、ダイバーシティーを合理的に管理・運営できる仕組みを築くには専門家集団が必要であると強調していた。

そのためには、自治体や教育機関、そして企業等が積極的に有能な外国人を登用し、それを多様性の手本にするのが社会にとってもプラスに働くというのである。

今回の会議では、インターカルチュラルシティーという概念が紹介されたが、これは社会の多様性を付加価値としてうまく利用している町のネットワークであり、欧州の国内外にそのネットワークは広げられ、お互いに様々なプログラムを行っている。しかし、一つの町(自治体)がネットワーク参加の基準単位となっており、このネットワークに参加できるかどうかは認定機関が様々な指標を数値化してそれを定める必要があるという。非常に複雑なプログラムであるだけではなく、その認定のためにかなりの費用を費やして高い透明性を確保しなければならないのである。地元社会と多民族・多人種間の信頼と不安要素、従事している様々な業種とその教育水準、基本的な価値観と異なった宗教観の外国人の行動を明確な指標で数値化しなければならないのだが、日本にとってそれを外国人集住自治体等に導入することはそう容易なことではないし、そもそもその必要性があるのかという疑問にぶつかる。

アルゼンチンの留学生であり、修士課程と博士課程にいる。こうした人材の活用は日本のマネジメント能力及び企業や研究機関の戦略にもよる。

日本は、この20数年の間にそれまでにはなかった数の外国人を受け入れ、一部の地域ではかなり大きな摩擦が発生し、外国人子弟の未就学問題、高い犯罪件数等が発生している。外国籍住民が2%弱という社会で「多文化共生」という概念にこだわりすぎるとせっかくの共存という目的が空回してしまう。ほんとうに新たな多様性を活用したいのであれば、外国人の日本語コミュニケーション力の強化やそうした外国人の背景や出身国についてもっと知る必要がある。

ここ10数年、自治体や地元国際交流協会、NPO法人等の活動によって外国人の社会的インクルーションというものはかなり進展したといえるが、問題なのはいつまでもそうした集団を「マイノリティー、弱者、底辺」と決めつけていることである。定住化が進むにつれ当然同じ国籍のものでも、日本社会の諸制度をきちんと理解しそれを最大に活用するものもいればそうでないものもいる。みんなが同じペースで進むことは到底無理であり、互いに学び合うにはかなりの時間も必要である。

日本の場合、国レベルの政策が明確ではなく、未だに永住外国人を移民として位置づけることにためらっているが、これまでの様々な支援策や、地域社会の国際化政策および多文化共生政策によってそれなりの成果を上げてきた。過保護にして自立を妨げてしまった側面も否定できないが、これからの日本でも日本なりのダイバーシティー・マネジメント(diversity management)は、国内での国際理解促進、そして海外との交流とビジネス拡大のために必須であり、ブリッジ(bridge, puente)になってくれる日本人と外国籍人材を増やさなくてならない。

そうした意味と意義を確認したことで、今回のスペインの国際会議は非常に有意義で多くのヒントを与えてくれた。

日本からの参加者、滋賀県国際交流会の副主幹、北九州市の国際政策課長、福岡市の職員、難民起業サポートファンド事務局長

注釈:

1. Intercultural City Programme 欧州評議会 Council of Europe
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/Cities/default_en.asp

2. 山脇啓造研究室サイト:http://intercultural.c.ooco.jp/index.php

3. European Commission –Eurostat 欧州委員会統計局
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/statistics_explained/index.php/Migration_and_migrant_population_statistics/es

© 2013 Alberto J. Matsumoto

diversity Europe immigrants inter cultural city Japan

About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.