Discover Nikkei

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第十五話(後編)『あまちゃん』にありがとう!

ユカは、日本で生まれ育ち、15歳の時、両親とブラジルに戻った。

本当は、日本に残って勉強を続け、大学に進学し、栄養士になりたかった。そしてもうひとつ、「成人の日」には着物を着て友人と街を歩いてみたかった。しかし、両親はブラジルに戻って暮らすことを強く望んだので、ユカは仕方なく従った。戻ってからは、なるべく早く新しい生活に慣れようと頑張った。

しかし、高校に通い始めてからたった10日後、早くも、同級生にいじめられた。以来、学校へ行かなくなった。それから2年が経ち、あることがきっかけでユカの人生は変わっていく。

「バチャン1、日本にいた頃はあまり見なかったけど、ドラマ見るのってメチャ楽しいよねぇ?」

おばあちゃんはとても嬉しかった。孫娘といっしょに大好きな日本のドラマが見られるなんて、夢にも思っていなかった。孫は、あと4人いたが、誰ひとり日本のテレビ番組に興味を示さなかった。

ふたりが欠かさず見ていたのはNHKの連続テレビ小説『あまちゃん』だった。そして、夢中になっていくうちにユカは不思議なことに気がついた。ヒロインのアキと自分が重なって見えてくるのだ。

ユカのように、主人公のアキも両親の故郷に行き、おばあちゃんに懐いた。また、ユカのようにアキも地味で暗くて引っ込み思案だったが、新しい土地で過ごしていくうちに、積極的になっていく。そして、思いがけないことから地元のアイドルとなり、そのあと、東京へ行き、「GMT47」というアイドルグループに所属する。そんなアキの姿に、ユカは共感したのだ。

ユカはこの2年間、家の中に閉じこもっていたが、ある日、両親が営む「パステラリア」2に顔を出した。にぎやかな店の雰囲気がすっかり気に入り、そこで手伝いをするようになった。午前中は、家庭教師に高校の教科を教わり、翌年の高校促成コース入学を目指した。

『ジェジェジェ!』と、おばあちゃんは驚いた。両親も弟も、皆、驚いた。

「ユカはえらい!自分で自分の道を見つけたんだ」と、家族全員が喜んでくれた。これまでユカを優しく見守り、この日が来るのをじっと待っていてくれたのだ。

忙しくなったユカは『あまちゃん』を弟に録画してもらい、週末に、まとめて見た。ある日曜日、父親の兄が訪ねて来た。ちょうど、『あまちゃん』のオープニングテーマが流れていた。すると、伯父が話し出した。

「ユカちゃん、この曲はねぇ、伯父さんが若い頃大ヒットした『ア・バンダ』3によく似てるよ。あの混乱の60年代、暗い雰囲気が漂っていた頃、『ア・バンダ』を聞き、皆、明るさを取り戻した気分になったものだ。雲が切れて太陽がぱっと明るく射し込むように。このドラマの曲も同じような不思議な力を持ってる。伯父さんも大好きだよ」

ユカは伯父の話しぶりに聞きほれていた。

「伯父さんって話し上手だね。もっと聞きたいわ。わたしはブラジルで育っていないから、ブラジルにそんな暗い時代があったなんて、全然知らなかった」

「ユカちゃん、ゆっくりと、この国のことを勉強していけばいいよ。焦ることはないから」と、伯父は励ましてくれた。

『あまちゃん』を見ながら、ユカは幾つかの共通点を見つけ、感動した。アキが参加するアイドルグループ「GMT47」の仲間は、ユカが日本に残して来た友だちのように元気で、皆仲良しだった。アキの初恋の「種市先輩」もユカが好きだった良太君に似ていた。その他、主人公のマネージャーの「ミズタク」はユカの英語の先生を思い出させた。

一番インパクトがあったのは東日本大震災の場面だった。ユカも当時の恐怖と不安がよみがえったからだ。ヒロインはそれをきかっけに北三陸に戻る決心をした。大好きなおばあちゃんや地元の優しい人たちに囲まれて暮らしたかったのだ。ユカの家族も同じように、親戚や友人が居るブラジルに帰ることに決めた。

そして、「GMT47」が歌う「地元へ帰ろう、地元で会おう」はユカの応援歌になった。もちろん、ユカにとって、地元とはブラジルのことだ。

年末が迫り, うれしい知らせが届いた。日本でユカたちが世話になったパストール・マコトという牧師がブラジルに来るという。日本にいたとき、毎週日曜日、両親は教会の集会に参加し、ユカたち子供は日曜学校でパストール・マコトの奥さんにイエス様の話を聞き、賛美歌を歌い、楽しい時間を過ごした。パストールは地域のブラジル人やペルー人の手助けをしてくれる大切な存在だ。ユカたちは皆、パストールとまた会えるのを楽しみにしていた。

12月24日23時。パステラリアが営業を終えると、そこはクリスマスパーティー会場に早変わりした。親戚や友人が続々と集まり、盛大なパーティーが始った。

ユカの両親は感謝の気持でいっぱいだった。今まで健康で働いて来られたこと、親戚や友人に支えられ、ユカが自分の道を見つけ、歩みはじめたことも、全てが神様のお恵みと、心から感謝した。

ユカは今の自分が信じられないくらい幸せだった。ゆっくり行けばいいんだと、思った。気が付けば、うれしいことに、自分の周りには大勢の人の輪が出来ていた。感動に目を潤ませながら、クリスマス・キャロルを歌い始めた。

♪♪♪
きよしこのよる ほしはひかり
すくいのみこは みははのむねに
ねむりたもう ゆめやすく
♪♪♪

注釈

1.日系人の間の「おばあちゃん」の呼び方

2.ブラジル風一層構造のあげパイの店

3.「A Banda」作詞作曲Chico Buarque de Hollanda

 

© 2013 Laura Honda-Hasegawa

Amachan (TV) Brazil dekasegi fiction foreign workers holidays Nikkei in Japan
About this series

In 1988, I read a news article about dekasegi and had an idea: "This might be a good subject for a novel." But I never imagined that I would end up becoming the author of this novel...

In 1990, I finished my first novel, and in the final scene, the protagonist Kimiko goes to Japan to work as a dekasegi worker. 11 years later, when I was asked to write a short story, I again chose the theme of dekasegi. Then, in 2008, I had my own dekasegi experience, and it left me with a lot of questions. "What is dekasegi?" "Where do dekasegi workers belong?"

I realized that the world of dekasegi is very complicated.

Through this series, I hope to think about these questions together.

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About the Author

Born in São Paulo, Brazil in 1947. Worked in the field of education until 2009. Since then, she has dedicated herself exclusively to literature, writing essays, short stories and novels, all from a Nikkei point of view.

She grew up listening to Japanese children's stories told by her mother. As a teenager, she read the monthly issue of Shojo Kurabu, a youth magazine for girls imported from Japan. She watched almost all of Ozu's films, developing a great admiration for Japanese culture all her life.


Updated May 2023

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