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『若人』 ―帰米二世文学の芽生え- その2/5

>>その1

所内には戦場で使用するカモフラージュネットの工場があり、住民に戦争努力への貢献を求め、市民権を持つ人のみが働くことを許された。また、早くも1942年9月から戦時転住局の斡旋で、綿花摘みの労働者が求められた。アリゾナ州は全米の4分の3の量の長い繊維の綿花を産出し、それは戦時国防必需品であった。戦時中の労働者不足のため、収穫には収容者の労働力がぜひとも必要であった。戦争努力に貢献すると同時に賃金も得られるとあって、多くの男女が応募し、一度に約100名ずつ外部へ就労していった。

1943年2月に忠誠登録が行われたが、ヒラでは目だった混乱はなかった。登録拒否を強要した者が当局から注意を受けたくらいであった。3月はじめまでに17歳から38歳の男女で登録した者は5,200名であった。ヒラで問題とされたのは政治的なことではなく、もっぱら賭博や青少年の不良化といった社会問題であった。いずれの収容所にも程度の差こそあれ、このような問題が存在したが、ヒラでは合衆国に忠誠な者、不忠誠な者との間の深刻な対立がなかったために、社会問題がいっそうクローズアップされたのであろう。

1942年秋から、「山の市」で賭博によって24名の検挙者を出す騒動が起こっている。当局は、職業的に賭博場を開く者があり、善良な人々を誘惑して金銭を巻き上げているとして厳重に取り締まった。賭博をした者は、発覚する逮捕されて、髪を丸刈りにされてしまったという。戦前の日系人社会と賭博は切り離せないものであった。在米日本人会やキリスト教団体が早い時期から賭博撲滅運動に乗り出したにもかかわらず、移民地は娯楽の少ない男性社会という事情もあり、賭博で身をあやめる人はあとを絶たなかった。収容所内での賭博はこのような風潮が持ち込まれたことを裏付けている。
    
1943年3月にはヒラから101名が志願兵となったが、その一方でパチューコと呼ばれる不良青年も増えていった。彼らは収容所生活に希望を見出すことができず、群れを成して所内をのし歩き、けんかをしかけたり、恐喝をはたらいたりした。特にこの次期には揃いの赤い帽子に赤い靴といういでたちで、鳥の羽のような独特の髪型をして一目でそれと判別できた。これに対して親たちは、財産を失った日系人の唯一の希望は後継者の育成であるのに、その大切な子供たちに悪影響を及ぼす不良青年たちは許せないとして、ブロックごとに自警団を作って、子供の不良化防止に努力した。収容所では三度の食事を作る必要もなく、希望しなければ就労の必要もなかったため、生活の基本が崩れて両親が子供を放任する結果となった。子供がある程度の年齢になると、食堂では友人同士で食事をし、母親は同年齢の人同士、父親も仲間と食事を共にするという家族がばらばらの状態がいたるところでみられた。家族の団欒が失われ、次第に家族関係が崩壊していき、子供を育てるには最悪の環境であった。親たちは毎晩9時以降は子供を外に出さないなどの申し合わせをして、ブロックごとに子供たちの動向を見張った。このような対処法は、日本人独特の「町内会」的発想であった。

忠誠登録を境に所内の人びとは忠誠組、不忠誠組に二分され、不忠誠者はトゥーリレイクへ隔離された。これとは逆に軍隊に志願した者は徐々に入隊のために移動して行った。忠誠を表明した人びとは外部へ出ることができた。トゥーリレイクへ送られた人びとは1,818人で、1943年10月1、2、3、6日の4回にわけて出発した。これらの人びとが去ってしまうと、ヒラには合衆国に忠誠な人びとばかりが残った。44年6月にはアーカンソー州ジュローム収容所の閉鎖にともなって、2,300名が移動して来た。ヒラではとくに騒動も起こらず、平穏な明け暮れであった。人びとの関心は、再定住の場所とよい仕事を探すことに向けられた。45年8月、日本が降伏したのち、この月の終わりまでに収容所は閉鎖された。

その3>>

* 篠田左多江・山本岩夫共編著 『日系アメリカ文学雑誌研究ー日本語雑誌を中心にー』 (不二出版、1998年)からの転載。

© 1998 Fuji Shippan

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About this series

Many Japanese-language magazines for Japanese Americans were lost during the chaotic times of war and the postwar period, and were discarded because their successors could not understand Japanese. In this column, we will introduce annotations of magazines included in the collection of Japanese-American literary magazines, such as "Shukaku," a magazine that was called a phantom magazine because only the name was known and the actual magazine could not be found, as well as internment camp magazines that were missing from American records because they were Japanese-language magazines, and literary magazines that were also included by postwar immigrants.

All of these valuable literary magazines are not stored in libraries or elsewhere, but were borrowed from private collections and were completed with the cooperation of many Japanese-American writers.

*Reprinted from Shinoda Satae and Yamamoto Iwao, Studies on Japanese American Literary Magazines: Focusing on Japanese Language Magazines (Fuji Publishing, 1998).

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About the Author

Professor at the Faculty of Humanities, Tokyo Kasei University. Graduated from the Graduate School of Japan Women's University. Specializes in Japanese-American history and literature. Major works: Co-edited and authored "Collection of Japanese American Literary Magazines," co-authored "Japanese Culture in North and South America" ​​(Jinbun Shoin, 2007), co-translated "Japanese-Americans and Globalization" (Jinbun Shoin, 2006), co-translated "Yuri Kochiyama Memoirs" (Sairyusha, 2010), and others.

(Updated February 2011)

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