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https://www.discovernikkei.org/en/journal/2010/9/7/florida-to-amanohashidate/

フロリダと天橋立-その1

アメリカ南東部のフロリダ州に、日本文化を紹介するモリカミ・ミュージアムと日本庭園があることと、そこで春に行われた大きなフェスティバルの模様を前回紹介した。

日本とはあまり縁のないような場所にある「モリカミ」の名称は、森上助次という人物から由来する。いまから100年以上前にフロリダに農業移民として入植した日本人の一人である森上氏は、生前に所有する土地を地元のパームビーチ郡に寄贈し、それがもとでこのミュージアムと庭園ができあがった。また、これが縁で同郡内にあるデルレイ・ビーチという町と、彼の故郷である京都府宮津市は、姉妹都市関係を結び交流を続けている。今年も6月半ば、デルレイの高校生が数日ではあるが、宮津でホームステイをしながら地元、府立宮津高校で学んだ。

日本三景として有名な天橋立がある、日本海沿いの宮津と大西洋岸に位置する亜熱帯のデルレイ・ビーチ。この二つを結びつけた森上氏は、なぜ20世紀のはじめに、はるばるフロリダへわたったのだろうか。そして二度と日本の土を踏むこともなかった一方で、フロリダにその名前を残すことになったのか。その背景には、彼だけではない、宮津から集団で移住し、フロリダで成功を夢見た人たちの物語があった。

「ヤマトコロニー」をつくった二人の日本人

ヤマトコロニー入植者

移住の足跡については、「モリカミ」の資料やアメリカへの日本人の移住について地方別にまとめた『米国日系人百年史 : 在米日系人発展人士録』(新日米新聞社、1961年刊)、さらにアメリカで出版された『Konnichiwa Florida Moon』という森上氏の物語などをもとにまとめてみたい。

発端は、当時のフロリダでの鉄道建設だった。石油王のロックフェラーとスタンダード石油の経営にかかわった大富豪に、鉄道王といわれたヘンリー・フラグラーという人物がいる。彼は、Florida East Coast Railwayという会社をつくり、19世紀末から20世紀初めにかけて、フロリダの大西洋岸のジャクソンビルから最南端のキーウェストまで鉄道を敷いた。と同時に、大西洋岸のフロリダの開発を進めて、今日のリゾートの基礎をつくったと言われる。

開発にともない同社は、マイアミの北40マイルのところに所有する1260エーカーの土地の一部にパイナップルを植え付けた。しかし安いキューバ産には対抗できなかったため、太平洋側ですでに野菜作りをして実績をあげていた日本人を入植させて野菜をつくらせようと考え、その土地を日本人に提供すると公表した。

このことを知って、フロリダに入植しようと決意した日本人が当時アメリカにいた。ニューヨークに留学中だった奥平昌国と酒井襄(じょう)の二人である。奥平は九州豊前の国、中津藩藩主奥平昌高の弟だというが、酒井については宮津の出身で、同志社で学んだ後にニューヨークの大学に留学したとされている。

これが1904(明治37)年のことで、二人は現地で土地を購入して、「ヤマトコロニー」と名付けた。さらに酒井は事業を拡張しようと、郷里の宮津に帰って、入植者を募り十数人を引き連れてフロリダへ戻った。1906年、07年と同じく宮津や近隣の峰山方面(現在の京丹後市)から入植者が続いた。このなかの一人が森上氏だった。 

一方、奥平も日本から青年を連れてきたり、また、カリフォルニア方面からも日本人が入植し、1910年前後の全盛期にはコロニーの人数は100人を超えていたという。女性たちが加わり、現地で子供が生まれて学校もできていった。

「モリカミ」の日本庭園のなかにできた、桂離宮を模した最初の展示棟には、当時のコロニーの様子を示す写真や酒井、奥平、森上ら三氏の写真なども展示されている。集団で暮らしたであろう建物や子供を含めての記念らしき集合写真もある。ワイシャツにネクタイを締め、女性はワンピース姿という身なりをしている。自動車を運転しているところをとらえた写真もある。

他のアメリカへの日本人移民もそうだが、記念写真はかならず撮るようで、それもみな洋風に正装をして日本では見られないようなモダンな姿で納まっている。一種の成功の印でもあるのだろう。

しかし、この立派な写真の陰にある実際の生活となると厳しかった。南部フロリダは湿地帯は多く、雨も多く肥料が流されたり、さらに蚊など虫は多く、蛇、毒グモ、ワニなども生息している。これらに注意しながらジャングルともいえる地を開墾していかなくてはならない。

コロニーでは、最初はパイナップルをつくっていたが、のちにトマトやコショウ、ナスなど野菜作りをはじめたという。収穫した野菜や果物は、近くに市場がないので鉄路で遠くニューヨークやシカゴなどへ販売をした。鉄道の最寄りの駅は、このコロニーの名前をとって、「YAMATO」と呼ばれていて、当時の様子をあらわす写真も残っている。

YAMATO駅の様子

その2>>

*本稿は、時事的な問題や日々の話題と新書を関連づけた記事や、毎月のベストセラー、新刊の批評コラムなど新書に関する情報を掲載する連想出版Webマガジン「風」(2010年6月30日号)からの転載です。 

© 2010 Association Press and Ryusuke Kawai

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About this series

150 years have passed since the Kanrin Maru arrived in America, and since Japan's transition to modern society, many Japanese people have made their mark on the world. While inheriting Japanese heritage, they live in other countries and cultures. We follow the world of people who have ties to Japan beyond the framework of the nation, mainly in America, and consider what it means to be Japanese and what identity is.

- Japanese Gardens and Cosplay in Florida (3 parts)
- Florida and Amanohashidate (3 parts)
- Florida and Amanohashidate ~ Pioneers of the Yamato Colony and Tango Chirimen (3 parts)

*This series is reprinted from Renso Publishing 's web magazine "Kaze," which features information about new books, such as articles linking new books to current issues and daily topics, monthly bestsellers, and columns reviewing new books.

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About the Author

Journalist and non-fiction writer. Born in Kanagawa Prefecture. Graduated from the Faculty of Law at Keio University, he worked as a reporter for the Mainichi Shimbun before going independent. His books include "Yamato Colony: The Men Who Left Japan in Florida" (Shunpousha). He translated the monumental work of Japanese American literature, "No-No Boy" (Shunpousha). The English version of "Yamato Colony," won the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.

(Updated November 2021)

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