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The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

南米の教育情勢と在日日系ラティーノの教育課題

日系就労者が来日し始めて20年、2008年末の世界経済危機の影響で昨年、日本在留プラジル人の約15%(45,000人余)、ペルー人の4%(2,250人余)が本国に帰った。それでもまだ日本には前者が約267,456人、後者が57,464人住んでおり、日系就労者の定住化傾向は高い。また、年間3,500人あまりがブラジル国籍者として日本で生まれており、ペルー国籍の場合は780人ぐらいという数値をここ数年維持している。義務教育学年齢に相当する5歳から14歳の児童については、ブラジル国籍が33,000人ぐらい、ペルー国籍が7,800人ぐらいである

日系就労者を受け入れ始めた頃、日系人は日本語もできるし、南米では優秀で高学歴で、当然子供たちに対する親の教育意識も高く、日本社会にあまり問題なく適応するのではないかと思われていた。しかし、日系就労者が増えるにつれ、特にブラジル人子弟の未就学問題が注目されるようになってきた。ペルー人子弟は前者と違い、義務教育は終えるのだが、学力水準が低いまま義務教育を終える者が多いのか、高校や大学への進学が困難なケースがよくある。また、高校に入学しても卒業率が低いという指摘も出ている。

こうした背景には、親の不安定な就労形態やそれに伴う移動(派遣先に伴う国内移動だけではなく、本国に数年間戻ったという移動も含む)といった問題があり、時には親の教育に対する意識の低さや家庭内の諸問題(離婚、別居、同棲、一人親(未婚の母等))なども大きな要因としてある。近年、コミュニティー内では未成年の同棲、妊娠、出産も増えており、あまり表に出ていない事例だが、その親からの相談は増えている。

南米諸国から来た日系人は、それぞれの母国の良さをたくさん持ってきているのだが、他方あまり良くない要素を引きずっているのも事実である。

2000−2005年のラテンアメリカの社会指標統計をみると、同棲率が最も高いのがペルーで47.4%、15歳~24歳の層では82.6%、25歳~34歳では55.6%とある。ブラジルやアルゼンチンでは平均が30%台であるが、若い層では6割になっている。2000年の統計の婚外出産率をみると、ほとんどの国で50%を超えている

南米では、すべての小学児童が卒業できない地域はたくさんある。

ラテンアメリカの教育情勢については、CEPAL(国連ラ米カリブ経済委員会)やSITEAL(ユネスコのラ米教育調査システム)というシンクタンクが報告書をまとめているが、それを見ると、小学校就学率(終了・卒業率ではない)90%を記録したのが、アルゼンチンで90年代になってからだった。ブラジル、コロンビア、メキシコ、ペルー等は2005年になってからである。中等教育前期課程(日本の中学に相当)に関して言えば、就学率50%という目標を達成できたのは、チリが1985年、アルゼンチンとペルーが1995年、そしてボリビア、ブラジル、コロンビア、パナマ等は2005年だった。同報告書によると、2005年現在、中等教育終了・卒業率70%に達したのはチリとペルーのみであり、アルゼンチンが60%台、ブラジル、ボリビア、コロンビア等はまだ50%台にしか満たない。中米のグアテマラ、ニカラグア、ホンジュラスは30%未満と深刻な状況にある。

日本と違って義務教育でも完全な就学率はなく、欠席率、不登校率、自主退学率、再履修率(落第率)等は未だに高く、一部の国や地域ではむしろ悪化しているという指摘もある。そのうえ、教育施設のインフラ問題や、教員の質と処遇の問題、効果的な予算配分も大きな課題となっている。
 
2000年~2007年のSITEAL調査データによると、ラ米全体の青少年(12歳から17歳)の平均非識字率は3%だが、国によっては10%、農村地帯では19%にも及び、ブラジルのアマゾニア地域では20%、アラゴアスやアクレ州の農村部では23%と高い数値を示している。

2005年のSITEALレポートには、児童や学生の自主退学の理由が詳細に記されており、34.5%が家庭問題または家庭の経済問題、25.2%が仕事をするため、10.3%が勉強に関心がないまたは良い結果を出せなかったため、そして8.6%が家事手伝いや妊娠によって学校を辞めたとある。年代別に見ると、20歳~24歳の層では仕事を理由に辞める人が30.8%を占め、これは15歳から19歳の層のほぼ倍にあたる。経済的な理由をあげているのは、女性の方(37.2%)が男性より高く(31.8%)農村地域の若者の方が都市部より高いというデータも出ている3

他方、CEPAL レポート(男女別8カ国、15歳~19歳、1999年調査)でも同様の指摘をしている。若者の中退率は、都市部中流階級で23%、貧困層では37%、農村部では55%に達している。こうしたデータも世帯主が職についているか否か、母親の最終学歴、母親が未婚の母であり親と同居しているのか、それとも一人で生計を立てているのかといった家庭状況によっても大きな違いがある。また、母親の教育年数が5年未満であると、子供の中退率は都市部で41%で、農村部では55%ある。5年以上の教育だと、それぞれ15%と34%である4

また、個別にペルーとブラジルの教育統計をみると、次の状況が分かってくる。

ペルーのシエラ(山岳)地帯の一部では、乳児・幼児の慢性的栄養失調率が50%以上で、地区によっては乳児死亡率も70/1000、25/1000である。母親の多くは、幼稚園も教育施設の一環であり小学校の前期課程であるということすら知らない。また、貧困地域の学校のインフラ整備は貧弱で、飲料水さえ設備されていない教育施設も23%あると言う。

中学生に相当する12歳から16歳の青少年の間では、34.5%が未就学状態にあり、6歳から17歳の児童・青少年の28.6%が労働している。非識字率は8.1%で、約150万人がその状態にあり、学習年齢のミスマッチ、再履修率が高いとある。

2008年のペルー国内の学力評価によると、小学校2年生の学習目標達成率は、読解で16.9%、数学で9.4%である。もっと詳細にみると、小学校2年生と6年生の90%以上が数学の最適学力に達しておらず、ほぼ同じ割合で必要な読解力も身についていない。また、中学3年に相当する学年を見ると94%、中学5年(高校2年に相当)では97.1%が、読解後の考察力や数学の学力が非常に低いという結果である。(*学習目標達成率はペルー教育省が定めている基準に達した水準であり、最適学歴はもっとも望ましい水準のことである。)その上、農村部と都市部の学校、公立と私立との格差は2倍から3倍ある。これを是正するには農村部や公立校における教員のレベルアップが急務と考えられており、ペルー教育省は教員研修事業をここ数年積極的に実施している

ペルーの教育情勢を表で(ペルー教育省の報告書から)

ブラジルの教育に関しては、UNESCOの2008年統計があり、初等教育での再履修率が19%で非就学率が4%とある。また、高等教育に関しては就学率が25%で、南米ではかなり低い水準である。他方、UNICEFが2009年に発表した調査によると、中等後期の中退率の高さを指摘しており、これは初等教育の学力問題及び高い中退率を原因としているという。小学児童460万人の内247万人しか卒業していないという事実を紹介しており、義務教育の段階から46.3%が中退している。小学校4年生で最も多くの児童が中退しており、進級しても再履修率が案外高いという。とはいえ、リオやサンパウロ州という中東部では約7割は小学校を卒業しており、他方アマゾニアでは28%、パラ州では22.3%という低い水準である。

中学・高校(大学準備期とも言う)では、全国平均終了率が50.9%で、中東部では59.7%、リオ州では44.5%である。経済的に豊かな中東部の地域でも終了(卒業)率は44.8%である。年間365万人が中等教育機関に就学しているが、卒業するのは185万人である。12歳から17歳の少年2,100万人の内、59%が教育を終え、高校を卒業したのは40%しかいない。中退する理由は様々だが、貧困や労働(家事手伝いも含む)、妊娠、出産というのが多い(2003年の統計だと、この年齢層の女子学生34万人が母親になっている)6

それでは在日日系ラティーノの子がこうした実体をそのまま反映しているのかというと、決してそうではないが、来日した就労者らがこの現実と無関係であるとも言えず、少なからずこうした構造的な問題の影響は受けていると推測できる。南米の教育・社会状況を知らずに日系就労者子弟の教育問題は語れないということである。

確かにリマやサンパウロ、ブエノスアイレス等には質の高い教育施設はあるし、特に大学生の意識や勉強に対する姿勢等をみると、南米での方が何倍も勉強し、競争し、卒業するためには日本の一般の大学とは比較にならないほど努力せねばならない。南米でも良い大学に入るには、日本と同様少なくとも中学からいい成績を取り、場合によっては予備校にも行って入試の準備をしなくてははらない。仮に志望校に入学できても卒業できるのは、学部にもよるが、国立で15%~20で、私立で30%~40%台である。

サンパウロ大学法学部

南米諸国では、義務教育を親の権利と義務として憲法及び教育関係法に明記しており、国民の義務としてまたは国家の責務として遂行しなくてはならないものなのである。それでも実体は予算上の制限や政策上のミスマッチで上記のようになっている。それでも、社会指標を含め、教育の諸問題もここ数年経済成長と共にかなり改善されてきているという評価である。数日前、ブラジルのメディアが世界500校の内100位以内にブラジルの大学6校が入っていると報じている。

南米の格差は経済的・社会的だけではなく、教育の面でも極端と言える。家庭環境が良いと、中等教育も高等教育の終了率も、日本とほとんど変わらないが、そうでないと上記の数字の中に入ってしまう。来日した日系就労者の何割かは、当然そうした状況から抜け出すために日本で就労、生活することを決意したのである。しかし、本国で得られなかったものは日本で補えたわけでもなく、ひたすら働いて、家族も形成したのであるが、教育に対する意識や子弟の教育方針については迷いや困惑もあったと言える。それが、子弟の教育問題として現れているのではないかと思える。

注釈:
1. 入管統計による推計、「在留外国人統計」平成21年、入管協会、2009
2. CEPAL: Las familias son cada vez más diversas en la región.”Informe: Familias latinoamericanas en transformación”. Serie Políticas Sociales Nº147, 2009.10.30
3. SITEAL Reporte - http://www.siteal.iipe-oei.org/
4. http://www.cepal.org/
   Panorama social de América Latina 2009
   La hora de la igualdad: brechas por cerrar, caminos por abrir. 2010.06
5. http://escale.minedu.gob.pe/escale/inicio.do?pagina=283   ペルー教育統計
   http://www.minedu.gob.pe/  ペルー教育省サイト
   http://surnoticias.com/index.php/educacion/superior-/3617-mas-de-177-mil-maestros-seran-capacitados
   2006年頃公立小中学校教員の資格審査試験を実施した際、ほとんどが不合格になったという結果を踏まえて、教育省は2007年から2010年末までに教員17万人の研修を実施している。
6. http://www.unicef.org/brazil/pt/aprova_final.pdf  UNICEF レポート2006年調査実施
   http://www.unicef.org/brazil/pt/activities_9381.htm
   http://portal.mec.gov.br/index.php  ブラジル教育省
   http://portal.mec.gov.br/index.php?option=com_content&view=article&id=208&Itemid=267 ブラジルの教育統計

© 2010 Alberto J. Matsumoto

education latinos nikkei in japan

About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.