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https://www.discovernikkei.org/en/journal/2010/06/16/nikkei-latino/

日系人の帰国支援事業による帰国を考察

2009年度も終わりに近づき、3月5日で日系就労者の帰国支援事業の受付も終了した。厚生労働省の集計(ほぼ確定)によると、20,649人が政 府の助成金で帰国しており、そのうち19,107人がブラジル国籍(全体の92.5%)、850人がペルー(全体の4%)、282人がボリビア、そして 68人がアルゼンチン人である。申請件数が最も多かったのが、愛知県5,604件、静岡県4,437件、三重県1,634件、群馬県1,371件、滋賀県1,374県の順である。ブラ ジル国籍者が多い自治体とほぼ一致している(愛知県:79,156人、静岡県:51,441人、三重県:21,668人、群馬県:17,522人、滋賀 県:14,417人。2008年末入管統計外国人登録者数によるもの)。

1月から12月の入管統計を検証すると、日本から出国したブラジル人は101,657人でそのうち再入国許可を得ていたのが、55,292人であ り、日系人と言える在留資格を持っている出国者は84,090人で、1月から3月にかけて出国が集中している(1月:11,112人、2月:10,941 人、3月:11,102人)。帰国支援事業で帰国した19,107人の再入国許可は無効になっているので再度来日できないが3、2009年中に来日したブラジル人はたったの37,380人で、その内21,509人が再入国許可をもっていたが、23,790人が日系人と言える在留 資格の持ち主である(2千人が新規入国の日系人であるということを意味する)。入国者が多い時期は1月、4月、7月である。全体のプラスマイナスを計算す ると2009年末には24万人のブラジル人が日本に留まって生活しているということになる(2008年12月末では、312,582人であった)。何世帯 が帰国したかを把握するにはさらに詳細なデータが必要であるが、約25,000世帯程度であると推測できる。

愛知県犬山市でのペルー人研修、今後の人生設計や課題について親権に耳を傾ける参加者

他方、ペルー人に関しては出国者が12,827人で、そのうちの再入国許可者は9,825人、そして日系人と言える在留資格の者は10,330人で ある。ブラジル人と同様1月から3月の出国が多いが、実際2009年中に入国・再入国してきた者が圧倒的に多い。日系人の在留資格とされる入国者は 7,984人で、1月(888人)、6月(1,064人)、そして8月(1,039人)に多く、その内6,635人が再入国者である。ペルー人の場合、政 府の帰国支援事業で帰国した者が850人であるため、プラスマイナスをみると1万人の出国に対して約7千人が戻ってきている。帰国支援で帰国した者を含め ても帰国したのは全体の18%ぐらいであるが、戻ってきた者も多いため、2009年12月末には56,500人程度になるはずであり、同国籍者の人口減は 5%程度である(2008年末には59,723人の登録者)。

ブラジル人の場合は、支援事業対象者を含めると10万人以上(全体の33%)が帰国しているが、再来日して戻ってきたのが23,000人ぐらいでしかないため、人口減は20%以上で7万人以上がまだ本国にいるということになる。

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       2008年12月 2009年10月帰国支援 出国者/入国者(日系人) 2009年12月
ブラジル   312,582               19,107                 84,090 / 23,790            ± 240,000
ペルー         59,723                   850                  10,330 /  7,984            ± 56,500
ボリビア          6,527                   282                       ---------
アルゼンチン  3,777                     68                       887 / 863                    ± 3,600
注)2009年12月末の入管統計はまだ公表されておらず筆者の推定である。
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これで明確になったのが、ブラジル人とペルー人の行動パターンだけでなく、日本政府の帰国支援事業の利用度も異なるということである。この現象に対 する見方は様々であるが、本国に帰ってもあまり仕事がないペルーと比較的仕事はあるブラジルとの違いや、ブラジルの方が、市場が大きいため起業するチャン スが多いということ等があげられる。実はペルーもブラジルも経済的に成長しているにもかかわらず失業率は8~9%台であり、リマやサンパウロの都市部では 若年層(15歳から24歳)の失業率はむしろその倍ののぼる(ブラジル:男性約14%/女性22%、ペルー:男性12%/女性15%)。また、就業人口も この10年でペルーが1100万人から1450万人に、ブラジルは8500万人から1億人に増加しており、女性の労働市場への進出もかなり伸びているとはいえ、女性の都市部での失業率は男性のそれより35%〜50%も高い

これだけの指標をみるかぎり、本国へ帰っても当然すぐに職に就くことは難しいし、日本で培ったスキルも低いため本国で得られる所得も、平均賃金か職種によってはそれ以下の可能性もある。統計上の年間平均所得はブラジルが8,000ドル弱で、ペルーが4,500ドルであるが、高所得者と低所得者の大きな格差を含めた数字であるため、実際多くの給与所得者はこの平均より低く、労働市場の半分(男性52%、女性59%)はブラッ ク労働(従業員として記録もなく、賃金台帳も社会保険加入記録もない、インフォーマル労働である。雇用主もいかなる届出もしておらず、労災になっても保護 されず、非正規雇用よりもっと低い条件で雇用されている労働者のことを指す)であるのが現状であり、若年層や60歳以上の高齢労働者の8割もそうした状況 にある。また、近年物価も上がっており、相当の所得を得なければ日本で生活していたように新車や最新の家電を購入することはできない。

名古屋のヒルトンホテルで開催されたペルーグルメフェア いつも日本人が多いが、今回は多くのペルー人も来場したことが特徴だった。

数ヶ月前に執筆した「日本の日系人:本国に帰るのか、日本に残るのか」では、ペルー人はあまり帰らないと指摘し、本国に戻っても最近の中南米諸国はビジネス環境も競争率が激しく、多少の資金で起業しても事前にプロによる市場調査 や経営能力のある人材を集めなければほとんどの事業が数ヶ月か一年以内に閉店に追い込まれていることを強調した。そうした観点からも、本国に一時的に戻っ たペルー人は数ヶ月後には再度日本に戻ってきており、今後もその傾向は続くと思われる。

他方、帰国支援事業で帰国した者の中にはあまり深く考えず安易に公的資金を手にして帰った者も少なくないように思われる。生活基盤を失ったというこ とや再就職難ということより、目に余る無計画で無責任な生活をし、住宅ローンや車ローン等の借金を踏み倒すことを意図しながら帰国した日系就労者も多数い る。事実上、2009年11月群馬県太田市で開催された「外国人集住都市会議」でも、自治体首長数人が「日本の公的資金で帰国する者が税金(住民税等)や 保険料(国保や年金)を滞納している」と苦言を呈したのである。

支援事業で帰国した者の一部は3年間再入国禁止を解いてほしいと言っているが、債務の種類によっては再来日した際、大量の請求書が届くことになると 肝に銘じてほしい。本国に戻っても仕事がないことに気づくと「理不尽に追い出されたので、戻れるように再入国を認めてほしい」というご都合主義者もいるの だが、日本に残り納税義務や債務支払い義務をきちんと履行し、または耐え忍んでいる同胞と一緒にすることはできないであろう。

日本での定住を選択し、就労準備研修に参加して少しでも日本語能力を身につけてスキルアップを目指している日系就労者には今後も日本政府は可能な限りサポートしていくに違いないが、このような貴重なチャンスを最大に活用しなければ定住の意思があっても厳しい状況が待っていると言える。

今回の経済・金融危機は世界的な危機であり、大きな変動の最中でもある。地球規模で産業構造や貿易の仕組みに影響しており、多数の専門家が指摘する ように雇用はかなり後から回復することになりそうで、労働生産性という概念にも大きな変化を及ぼすに違いないようである。これまで以上に一人の労働者が複 数の作業を効率よく行うことが求められることは間違いないようである。日本全体の産業も大きな試練を迎えており、日系就労者がこれまで従事してきた製造 業、それも輸出産業の製造業は最も大きな影響を受けており、生産現場でもより競争率の高い労働力が求められている。残った日系人たちも、こうした情勢をふ まえてこれまで十分ではなかった日本語の取得と、日本社会への統合意識を高める必要がある。

ペルー人ビジネスセミナー、著名なスピーカーによってペルーでの事業について

注釈
1. http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000003rnz.html
サイトには、1月5日現在までの集計のみである。上記のデータは、同省外国人雇用対策課によるものである。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gaikokujin.html 施策一般情報

2. 多くの日系就労者は「日本人配偶者等(主に二世)」、「定住者(主に三世または二世の非日系配偶者とその夫婦の子弟)」、そして「永住者(二世や三世、ま たは非日系配偶者を含む世帯で、ある程度の滞在期間を得て永住資格を得た者)」という在留資格を得ているが、100%が日系就労者と言えるわけではなく、 元留学生、日本人と婚姻して国際結婚した外国人、そして日系であっても非熟練労働ではなくホワイトカラーの社員になっているものも含まれる

3. 政府の帰国支援事業で帰国した者は今後3年間は再来日できないということになっている。また、再入国許可も無効になるので、再度来日する際は新規に在留資格を取るしかないことになる。

4. Anuario Estadístico de América Latina y el Caribe - CEPAL, 2009 http://www.cepal.org/
OIT  - Panamara Laboral 2009 http://www.oit.org.pe/index.php
世界労働機構ラ米支部の報告によると、現在15歳から24歳の若者のうちこの地域には700万人が仕事に就けない現状がある。
http://www.oit.org.pe/index.php?option=com_content&view=article&id=2362:oit-presento-panorama-laboral-2009-de-america-latina-y-el-caribe&catid=117:ultimas-noticias&Itemid=1305
ラ米では1800万人が失業しているが、2009年だけで経済危機の影響もあって更に200万人が失業している。

5.ジェトロの国別情報 http://www.jetro.go.jp/world/

6.OIT –Panarama Laboral 2009, pág.43  Temas Especiales “Desafíos del trabajo decente en la crisis: Subutilización y trabajo informal”.

7.「日本の日系人:本国に帰るのか、日本に残るのか」
http://www.discovernikkei.org/ja/journal/2010/1/21/nikkei-latino/ 日本語版
http://www.discovernikkei.org/es/journal/2010/1/21/nikkei-latino/ 西語版

8.就労準備研修に関しては6,279人が受講し、そのうち4.082人がブラジル国籍で、1,765人がペルー、209人がボリビアであった。全体の40% が研修を最後まで終え、そのうち404人が終了時に就職先が決まっており、その他終了後も様々な仕事に就いている。ただ、2,740名が途中で辞退してお り、2010年度には更なる工夫と柔軟性が求められる。

© 2010 Alberto J. Matsumoto

dekasegi foreign workers Nikkei in Japan
About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.

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About the Author

Nisei Japanese-Argentine. In 1990, he came to Japan as a government-financed international student. He received a Master’s degree in Law from the Yokohama National University. In 1997, he established a translation company specialized in public relations and legal work. He was a court interpreter in district courts and family courts in Yokohama and Tokyo. He also works as a broadcast interpreter at NHK. He teaches the history of Japanese immigrants and the educational system in Japan to Nikkei trainees at JICA (Japan International Cooperation Agency). He also teaches Spanish at the University of Shizuoka and social economics and laws in Latin America at the Department of law at Dokkyo University. He gives lectures on multi-culturalism for foreign advisors. He has published books in Spanish on the themes of income tax and resident status. In Japanese, he has published “54 Chapters to Learn About Argentine” (Akashi Shoten), “Learn How to Speak Spanish in 30 Days” (Natsumesha) and others. http://www.ideamatsu.com

Updated June 2013

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